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第1話
「あのさぁ…ご飯の時くらい置いたら?」
目の前の男は片時もスマホを離さない。
「う…うん。あと少し。もう少しで終わるから」
仕事なんだか遊んでるんだか…。
何度、声をかけても空返事、上の空。
そっと僕は立ち上がって部屋を出た。
苛立ちというより、がっかりしてしまった。
お互い、仕事の忙しさもあり、やっと二人で会える時間ができたのに…。
今日、この日を楽しみにしていたのは僕だけだったのか?とも思った。
そしてマンションを出て大通りに向かってる途中でスマホが鳴った。
「そう言えばさぁ…あれ?佐智?」
ふと顔を上げると目の前には誰もいなかった。
懸は慌てて手にあるスマホで電話をかけた。
何回かコールしてやっと繋がった。
『…はい』
「お前どこにいんの?」
『どこって…今、タクシー乗るとこ』
「は?待てって。今行くから」
『来なくていい。もう帰るから』
「だから待てって」
『いいから!来なくていい』
佐智は声を荒げ、『もういい…』そう言って切れてしまった。
懸には何が何だかわからないまま。
この些細なことかも知れないすれ違いが後悔になるなんて…。
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