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第1話 出会い編
ラシェル視点
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「……ほ、本当にまだこの世界に存在していたなんて……」
「…………」
目の前の巨木の太い幹に、汚れが目立つ短い腰布一枚で仁王立ちしている……とても背の高い筋肉質な男。
高い位置から見下ろされる形で、こちらを静かに窺っているのが分かる。
黒色の髪の毛は全体が長く、風でユラユラと僅かに揺れている……。表情は分からない……。
……分からないが、警戒していると、そう感じる。
無理も無い。
この山奥は普段、人の姿など無いのだから……。
それが俺を先頭に武装した男が三十人……。
見慣れない俺達を警戒するのは、当たり前だろう。
しかも、我々は彼を捕らえる為にここまで来たのだ。
―……この世界の厄最の箱が急に開き、突然現れた"狂竜"。
それを討伐すべく、各国が混乱するままに無差別な異世界人の召喚が行われたのは、今から十五年程前……。
魔術が長けたこの世界で、異世界人は固有の強力な力を発揮すると古くから信じられていたのだ。
その時、煌いた星が百五十個現れ、この世界に異世界人が"勇者"として百五十人召喚された……と、後で分かった。
召喚された彼らには特別に輝く星の刻印が臍の上に有り、それが目印になった。
次々現れる召喚勇者達に討伐を依頼し、数年掛けても、問題の狂竜の元から誰も帰ってくる者は居なかった……。
勇者の"星"が消えていくのを、王城にある石碑で発見する度、その場に居た者全員が何も憚らずに頬を濡らした。
狂竜が倒されれば、褒賞を出し、残る勇者の希望を聞いて元の世界への帰還も検討していたのだ。
……この世界のあらゆる者はその事実に、更に混乱し、絶望し、帰らない彼らに侘び……安らかな眠りへ……と、祈りを捧げた。
そして召喚した勇者は全員、居なくなった……と思われた。
だが、悲嘆に暮れながらもつぶさに見た石碑から、一人、一番下の隅に小さな星が残っていた。
そこで最後の望みだと、長々と世界を捜索し、何と十五年かけて…………今……見つけたのだ。
「……最後の、勇者様……!」
俺は不思議と熱の篭る声色を吐き、彼の立つ巨木へ一歩踏み出した。
「…………」
「あ!」
しかし、何たる事か、勇者様は捜索隊の隊長である、俺……第三王子のラシェルの前から突然、幹を蹴って奥に去っていってしまわれたのだ!
あああ!! 勇者様、ラシェルは貴方の味方です!
どうか、どうか……後生ですから戻って来て下さい……!!!!
―……そうしないと、本当に世界が滅ぶのです……!!
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