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第1話
始業式は雨だった。
まだ肌寒い朝、雨と風でぐしゃぐしゃになって登校したあと、講堂で割と話し上手な校長の説教を聞く。周りには見知った顔ばかり。
退屈で窓を見上げると、暗い空と、ガラスに打ち付ける雨が見えた。
高校最終学年だから気を引き締めなさい。一度しかない十八歳を楽しみなさいと、訳知り顔の校長が言う。
でも早生まれの密は、高校三年生のほとんどを十七歳で過ごすことになる。
教室に戻ると、それぞれの生徒がいつもつるんでいる仲間同士でどうでもいい話を始めていた。
休みの間も仲のいい連中とは遊んだりメッセージのやり取りをしているから、それほど久しぶりだとは思わない。けれど、始業式と言うだけで、教室には最終学年が始まる節目の少し緊張した空気が満ちていた。
始業のチャイムと共に教室の扉を開けた担任教師に続いて、真新しい制服を着た生徒が入ってきた。
高三のこの時期に転入生?
全員が一瞬沈黙して、ゆっくりと歩く姿を見た。
それ程がっちりした体格ではないけれど、芯の通った姿勢を見れば筋肉がしっかりついていることが分かる。髪は短く、骨格も決して華奢ではないのに、どこか繊細な線で縁取られた顔だった。
髪は黒いのに茶色い瞳が印象的で、アンバランスな容姿が人目を惹く。
教師が背中を向けて、振り仮名の必要もない程シンプルな名前を書く間、生徒たちは好き勝手に口を開いて品定めする。
身長、体格、大人っぽさ、全てを自分と比較して優劣をつけたがる年ごろだ。
「転入生の佐藤類くんだ、今日からよろしく。いろいろ教えてやってくれ。佐藤くん、挨拶を」
促されて、佐藤と呼ばれた生徒はようやく視線を上げて教室を見渡し、一呼吸おいて言った。
「佐藤類 です。富山から引っ越してきました、趣味はスキーです。よろしくおねがいします」
耳触りのよい深く響く声、落ち着いた話し方、淀みのないごく短い自己紹介。
何か続きを言うのだろうかと全員が注目する中、類は他の生徒の反応を見ることもなくお辞儀をしてから、狭い机の間を器用に縫って廊下側の一番後ろの席に着いた。
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