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第2話
最大で約一年の年齢差のある区切り方をされていても、高校三年ともなれば年齢による体格差は消えて、遺伝的要素が殆どだ。
背の高い両親のお陰か、クラスで一番年下なのに見事に縦に成長した有本|密《ひそか》は、一年生の時から定位置になっている最後列の席から転校生を無遠慮に眺めていた。
――カラコン?なわけないか。いくら校則が緩くても、さすがにそれはないな。
吸い込まれるような茶色の瞳が妙に心に引っかかって、目が逸らせなかった。
窓側に座っている密にカーテン越しに四月の日差しが差し込み、時には『濃すぎて笑える、どこの人?』と揶揄われることもある造作の顔に、くっきりとした影を作る。
濃く一文字に伸びた眉毛に彫りの深い大きな目、しっかりとした鼻梁の下には、人懐こいおおらかな性格が現われたにこやかな口元。それぞれのパーツの個性が乱暴ともいえる程ぶつかり合い、美少年とは程遠いのに絶妙なバランスで人好きのする顔になっていた。
他の生徒より先に伸びた長身は、人込みの中でも頭一つ抜きん出ており、それに加えて均整の取れた体格をしているせいで、街に出ると注目を集めていた。当の本人はそれを嫌っていつも仏頂面をしている為一見とっつきにくいけれど、一度話せばすぐに打ち解け、人懐っこい笑顔で相手の気持ちを緩ませる。
女友達には『見た目に似合わず癒し系』と言われていたが、それも本人としては不本意で、言われるたびに目を細めて横を向いていた。
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中学から大学までエスカレータ式に上がることができるこの高校は、受験もなく自由な校風と気楽な雰囲気がうりだった。校則も緩く、最低限の点数と出席日数さえ確保できれば単位もくれる。地元では『極楽温泉高校』と言われる程だった。
学校側からうるさく言われることは少なかったが、途中から入ってきた生徒の中にはその曖昧な自由さになじみ切れない者もいた。
特に途中乗車組の中には、独自の雰囲気の中でのびのびと学校生活を送ってきた持ち上がり組の繋がりや、学校内の暗黙のルールの一つ一つに批判的な態度を取る生徒もいた。
二つのグループ間には明らかに温度差があった。
中学校から大学まで一貫で行かせようとする、経済的にも余裕のある家庭の生徒たちと、試験で優劣をつけられることに慣れた途中乗車組の一部は、お互いを馬鹿にし合うこともあった。
高校は、前者にとっては住み慣れた快適な場所であり、後者にとって単なる通過点にすぎない。
密は高校から入ってきた生徒だったが、物怖じせず細かいことを気にしない性格のお陰で、どちらのグループとも割と仲良く付き合っていた。
中途半端なタイミングでこの学校に来た佐藤類はどうなのだろう。一年しか過ごさないからあんなに踏み込ませないんだろうか、と密は考えていた。
転入生など殆ど来ないこの学校では、佐藤類は一番最後に加わった仲間となり、それだけでも周りから浮いていた。
その上、着崩さない制服、凛とのびた背筋、柔らかい笑顔を口元に浮かべて話を聞く。そう言った大人びた雰囲気が、思春期真っ盛り、屈折したり自意識に振り回されながらエネルギーを持て余している生徒達の中では、違和感を醸し出していた。
誰に対しても変わらず柔らかな物腰で応対し、挨拶はするし話せば会話も面白い。
ただ、気を許して踏み込もうとすると、よっぽど鈍い人間でない限り冷たい水に足を突っ込んだような気分になるのだった。
だから、誰もが少し距離を置いて付き合うようになっていた。
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