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第3話

 ゴールデンウィーク明けの小テストも終わり、放課後の空気は緩んでいた。教室に残っているのは、帰宅部で何となしにつるんでいる生徒たちだった。  有本(ひそか)は、友人の隣で机と椅子の間に窮屈そうに長身を押し込み、スマホの画面を眺めていた。何を見るともなしにぼんやりと画面をスクロールする。  テストがあったせいで切りそびれた前髪を煩わし気に掻き上げると、人懐っこい瞳に思春期特有の苛立ちがちらついている。  密がお気に入りのアーティストの動画を検索している横で、友人の堀田は昼前に購買で買ったパンを齧っていた。  堀田 匡雅(くにまさ)と密は一年生の時に席が近かったことがきっかけで話すようになり、三年になった今も気の置けない友達付き合いを続けていた。悪意はないけれど噂好きで、人の事を気にしすぎる所が玉に瑕だったが、音楽の趣味が合っていたこともあり密とは仲が良かった。 「なあ、佐藤って本当は十九歳なんだって」  また堀田の『佐藤ってさ』が始まった、と思いながらみんなそれぞれ手を止めずに聞いている。 「何かまずい事したんかな?あんな大人しそうな顔してるけど犯罪とか」 「それ学校が入れないだろ?留年してかっこ悪いからうちに転入じゃねぇの?」  机の上に腰掛けていたもう一人の友人、勝田が口を開いた。 「そういや(ひそか)はでかいくせに早生まれだよな、十九なら二歳違いじゃね?」 「ん、そうなるんかな?佐藤は確かに年上っぽい、漂う大人感、落ち着きが違う」  二人の話に半分耳を傾けながら、密は適当に答えた。ふと顔を上げると自分に注目が集まっている。人に見られることが好きではないのを表情に出さないようにしながら、密は丸めていた背を伸ばして体を起こした。 「なんだよ、俺の若さが羨ましいのか?」  噂をするのもされるのも得意でない。笑いを取って会話の流れを変えようとしたのに、堀田は話題を変えようとしなかった。 「何で高三で転校したんだろう、受験あるのに…」  誰に、という訳でもなく投げかけられた言葉は宙に浮いたまま。  本人に聞けばすぐに分かるはずなのに、そういう質問を許さない雰囲気が佐藤 類(さとう るい)にはあった。

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