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第4話
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「俺塾だから、お先。なあ、小テスト終わったし、週末カラオケ行こうぜ。佐藤も誘って」
勝田が机から下りて鞄を手に取った。
堀田は一瞬微妙な表情を浮かべたが、すぐにそれを隠して右手の親指を上げて同意を示した。
密も「いいんじゃね?でも来るかな」と承諾をする。
中学からの持ち上がりだから、という理由だけではないが、自己主張のはっきりした勝田の提案には逆らい難い雰囲気があった。マイペースなところのある彼を嫌う生徒もいたが、表裏のない物言いが、密には好ましく映っていた。
自分のことで手いっぱいになりがちな高校生としては案外周りの状況に目を向けるタイプだったけど、その行動や発言が煙たがられる事も少なくなかった。
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案の定というかやはりというか、佐藤類はカラオケに来なかった。
別のクラスの友人たちが途中から合流して窮屈になった部屋では、あちらこちらで勝手に会話が始まってカオスになっていた。
誰かが歌っている間に、密は勝田と話をしながら、類がなんと言って断ったのかを聞いてみた。
「『病院の予約があるから行けないけど、誘ってくれてありがとう』だって。何の病気かは言わないし、あんまり突っ込んで聞きずらいしさ。まあ、そういう雰囲気だよな」
実際に佐藤類がそう言って笑顔を浮かべる姿を密は想像していた。
少しだけ大人びた同級生。堀田の言っていた事が本当なら、自分とほぼ二歳違う彼の纏っている空気が違って見えるのは、年齢のせいだけなのだろうか。
学校は楽しい。
友達もいる。
英語と数学は比較的できるから多分進学も問題ない。両親は口うるさいが、強く反抗するほどでもない。
でも、自分が漠然と感じているこの生活への不安と、そこから抜け出せる気がしないもどかしさを誰かと共有するなら、違う世界の人間がいい。
例えば類のような。
「密と堀田は、佐藤の事よく気にしてるな」
ぼんやりと類の姿を思い出していた密は、勝田の突然の言葉に戸惑った。
「え、そうか?ああ…謎が多いっつーか、聞きにくいし、何考えてるかいまいち分からないし…」
同じ事を堀田も言いそうだな、と思いながら口に出した言葉に相手は可笑しそうに眉を上げて目を見開いた。
「お前ら仲いいけど、佐藤に対する態度は真逆だな」
どういう意味か分からない、という表情で密が勝田を見る。
「お前は」
勝田の人差し指が密の胸を軽く突く。
「気になって近づいてくし、堀田は気になって遠巻きに見てる」
「なんだよそれ」
類とは授業や購買で鉢合わせた時に話位するけど近づいた覚えはない、と反論しようとしたけれど、勝田はもう冷めたフライドポテトに手を伸ばして聞いてなかった。
周りのことなんか気にせずに好き勝手やっているように見える勝田が、そんな風に自分たちを観察していたのが密には意外だった。
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