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第3話
大きな瞳に、父親譲りのくせっ毛の髪がふわふわと跳ねる、大人しいながらも利発な高遠希、四歳だ。
「希、ただいま」
「まさ、おかえりっ」
駆けて来た勢いのまま、飛びつくように手を伸ばした希を、雅之は軽々と抱き上げて片腕に収める。
ぎゅっと抱きつく希に目を細めて、雅之が優しく頭を撫でると、それを見ていた淳もまた、ニコニコとした笑みを浮かべた。
「あ、高遠さん。今日も持っていきますか?」
「あぁ、うん。いつも悪いなぁ。迷惑でなければ」
「全然迷惑なんかじゃないですよ。ちょっと待っててくださいね」
ふと思い出したように声を上げた淳に、雅之は少しばかり恐縮したように頭を下げる。その様子に小さく笑みをこぼすと、彼は廊下を抜け、奥の方へ小走りに駆けて行った。
「あっくん、今日も来る?」
「え? あぁ、うーんどうだろうな」
淳が姿を消した先を、なんとなく見つめていた雅之は、ネクタイをぎゅっと掴んだ希の言葉に、苦笑いを浮かべて首を傾げた。
すると大きな瞳を瞬かせていた希が、不機嫌そうに頬を膨らませる。
希は入園以来すっかり淳に懐いており、ほかの先生たちでは口をあまり利かないらしい。
いつもべったりと甘えているらしく、時折ほかの子たちがやきもちを妬くほどだと、淳の父であり園長である響木が笑っていた。
「聞いてみるよ」
可愛い愛息の膨れっ面に、雅之の眉尻が下がる。表情は天使のように可愛いらしいけれど、意外と頑固な性格なので、希には言いだしたら聞かないところがある。
しかし気が引ける部分は確かにあるが、雅之にもなんとなく心の片隅に期待はあった。
「お待たせしました、これ高遠さんが好きなきんぴらと佃煮と、希くんの好きなハンバーグ。焼けばいいだけにしてあります」
奥へ去って五分ほどで、淳はまた小走りに戻ってきた。その手には小さな紙袋が一つ。それを笑顔で雅之に差し出してくる。
その笑顔が可愛いなと思いながら、雅之は差し出された紙袋を受け取るために手を伸ばした。
さらには紙袋の持ち手ではなく、淳の手を握り締める。
「あの」
するときらきらとした淳の笑顔が一変、ぶわっと音が出そうなほど頬や耳、首筋まで赤く染まった。
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