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◆プロローグ

 ◆  夜の闇がいっそう色濃く広がる。頭上に浮かぶのはぽっかりと満ちた月のみ。  ほうっと息を吐けば、白い吐息が大気に溶け、消えていく……。  今夜はずっと冷える。  白 弓月(つくも ゆづき)は、縁側に座し、静かに佇む月を一人、これといって何をするということもなく見上げていた。  ――幾度となく輪廻を繰り返してきた過去もこんな夜があったことだろう。  それは二十数年前の話だ。彼は今と同じく陰陽師の家で第二子として生まれたことがあった。  前世の名は紗霧 朔夜(さぎり さくや)。  生まれ持った霊力は恐ろしく強く、それ故に鬼に魂を狙われ続けた。その自分を助けてくれたのが兄である木乃葉(このは)だった。  兄、木乃葉は凛々しく、何者にも屈しない強い霊力を持っていた。そんなだからだろう、使命感を負った兄はどんな時でも自分の元に駆けつけ、襲い来る鬼から守ってくれた。朔夜にとって、木乃葉は頼りになる、唯一命を預けられる存在だった。  そして朔夜が常に自分を守ってくれる力強い木乃葉に慕情を抱くのは時間の問題だった。  ――いや、違う。  それが愛だと勘違いして兄を束縛してしまったのだ。

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