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まだ薄暗い国道を、先生と僕を乗せた車は走った。
朝方ということもあり、車通りは少なく、時折、トラックが走っているのが見えたくらいだ。
「僕、海に行ったことないんです」
僕は助手席で外の景色を眺めながら言った。
「まじか?1回もないのか?」
「はい。行ってみたいとは思っていたんですけど」
「じゃあ、初体験だな。結城の"初めて"を一緒に経験できるのが、俺は嬉しいよ」
先生はそう言った。
先生の一言一言がいちいち僕の胸を締め付けた。
「あ、そうそう、結城が気に入ったって言ってくれてたから持ってきたんだ」
先生は信号待ちの時に、袋を取り出して僕にくれた。
「あ、これ…」
あの日くれたピーナッツバター入りのパンだった。
「食っていいぜ。昨日、何も食べずに寝たから腹減ってるだろ?」
言われて気付いたけど、結構おなかが減っていた。
「いただきます」
先生がくれたパンを袋から出して、一口かじった。
ピーナッツバターの甘くしょっぱい味が口に広がった。
初めて先生とダンスの練習をした日を思い出す。
甘酸っぱい青春の味、ってよく言うけど、僕にとってはピーナッツバターの甘じょっぱい味がそれにあたるのかもしれない。
「うまいか?」
「おいしいです、すごく」
「俺にも一口くれるか?」
先生が運転しながら口を開けた。
僕は、少しとまどいながら、先生の口にパンを持っていった。
すると先生は大きな口でパンをガブッとかじった。
「お、相変わらずうまいな、これ」
先生はまた笑った。
もし許されるなら、その笑顔を側でずっと見ていたいと思った。
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