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第7話

オレは一体何をしているんだ? 寝袋に避難すれば、吉田の体温を感じる事はなかった。なのに... 手も足も出ない状況で、顔だけ出ているオレの唇に吉田はキスをした。 ...そして、オレも受け入れてしまって.......。 「ど?気持ち悪くないだろ⁉」 と、少し顔を上げるとオレの目を見てそんな事を言う。 「気持ち...悪くは、ないけど..........」 精一杯のオレの返答。目を合わせるのが恥ずかしい。 「だから、そういう事なんだって。大村、俺の事好きなんだわ。だから気持ち悪くないのさ。」 吉田のもっともらしい言い方が気にくわないけど、なんとなく腑に落ちる。 手を握っていた時も、ベッドで寝ている時も、一度も気持ち悪いと感じた事はない。別の友人には、くっつくなよ、と蹴飛ばしていたのに...。 「.................」 「重い。オレの上からどいてくれ。」 気持ちとは裏腹に、顔を横に向けるとぶっきらぼうに言ってしまった。 ここで自分の気持ちを言ったとしても、やっぱりな、といって笑われるのがオチだ。結局オレはキモイ奴と笑われて終わるんだと思う。 いつまでも、胸の上に手を置いたままの吉田に、「ふざけてないで、早く寝ろ。」 それだけを言うと目を閉じたオレ。 ふぅ~、っという吉田の呆れたようなため息が、オレの耳元で聞こえる。と、ぐわんっと寝袋のまま身体を抱えられ、ベッドの上に放り投げられた。 あまりにも勢いよくバウンドしてビックリしたオレ。 「ア?....な、何を.....」 ベッドの上で、寝袋に埋もれたオレに、またもや吉田の唇が迫ってくると、あっけなく2度目のキスをされてしまった。 焦ったオレの、寝袋のファスナーを降ろした吉田は、ギュッと身体を抱き締めてきた。 もう、何が起こったのか頭の中はぐちゃぐちゃ。吉田の訳のわからない行動に、オレの頭はついていけない。 「大村が俺を好きなように、俺だって最初に出会った時から好きだったんだ。気づいてないだろうけど........。」 「え?...なんて言った?...」 オレは耳を疑った。最初に出会った時って..... 「大村って、案外女子にモテんのな⁉可愛い系だからか。」 「は?...かわい....い?」 「俺がいっつも横にいるんで、お前を紹介しろって言われてたんだ。...だから、そいつらの事、全部食ってやった。」 「えっ?」 「俺とヤっといて、お前とは付き合えないだろう⁉」 「.................」 そこまで言われて、なんとなく頭の中で整理がついた。 オレが大学に入ってからモテなかったのは、全部吉田のせいだったのか?!こいつが、オレに来るはずの女の子を食い散らかして邪魔してたんだ。 「てめぇ.....」 身体を離そうと、もがきながら言うが、吉田の力は強くて。 更に締め付けてくると「俺の気持ちに気付かないお前が悪い。」と言い放つ。 「俺が女の子といても平気な顔しやがって、こんな絆創膏でやっとヤキモチ妬いてくれるって.........、長い道のりだったよ。」 そういうと、やっと力を緩めた。 「まさか、吉田がここで暮らすってのは、オレが女の子を連れ込まない様にするため?」 「当たり~、絶対阻止してやるからな‼」 まるで、小学生レベルの独占欲に呆れるが、それでも吉田がオレを好きでいてくれたことは嬉しかった。 「吉田.....お前ってバカだな。もっと早く言ってくれよ。そしたらこんな遠回りしないですむのに...」 「...そうだな。...でも、俺だって正直怖かったんだ。嫌われたくないもんな。」 「オレと一緒か。ふふっ、.....」 「俺たち、両想いになった?」 「...そうだな、そういう事になるかな?!」 「じゃ、俺と付き合う?」 「...うん、...付き合ってもいい。」 「.....、良かった~。」 安堵の表情を浮かべると、寝袋から出たオレの背中に手を回して身体ごと引き寄せる。 鼻先が当たりそうな程見つめ合うと、吉田は熱い目をして言った。 「...キスしてもいい?」 「もうしたじゃん。2回も!」 オレは、少しからかう様に言う。 「だからさ、...これは俺と大村が付き合って初めてのキス。ファーストキス。」 「.....」 吉田の頭の中は、イマイチ理解に苦しむけど、まあそんな所も好きな訳で.......。 結局オレはこいつを受け入れる事になるんだと、心の中で確信した。 ゆっくり目を閉じると、吉田の暖かい手のひらがオレの頬を包む。それから触れる弾力のある唇。吉田の言うファーストキスの意味が、なんとなくわかる気がした。 気持ちが伝わると、男同士のキスでも違和感はない。 不思議だけど、触れた場所から浸透する「好き」っていう気持ち。 この気持ちは溢れそうで、でも、零れ落ちる事はない。 互いの身体を包み込むと、すべてが吸収されていくようだった。 いつもは気にしないたった一枚の絆創膏。なのに、剥してみたら気づく事もある。 そして、明日にはもっと絆創膏が増えそうだと、互いの口元を見合うと想像できた。 _____完____

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