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第21話
「熊谷……」
「ちょ、やだっ」
「男たるもの、噂話に惑わされて情けねえな。それにウソかもしれねえのに好きかって言うのもだせえ」
「熊谷」
「熊谷、どうした?」
集まってきた友達を引き連れて、そいつらの横を通り過ぎながら俺は笑う。
「まあ俺は女じゃねえんでコソコソしねえよ。質問ならいつでも答えてやる」
「あいつら、何かお前に言ったのかよ」
「つるし上げるか?」
カバンに教科書を片付けながら、俺は気にしていない様子で首を振る。
そして空を見上げた。空は茜色に染まりつつある。
そんなクソみたいな噂話のせいで騒がれるのは勘弁だ。
ウソ八割だが、女に襲われて尻に指を入れられた真実を話すわけにもいかない。
それに童貞の俺に、経験豊富な噂話が流れてもマイナスにはならない。
それだったら満員電車に揺られる前に帰りたい。
「帰るわ。電車が混むと俺、邪魔になるから。空いてるうちに乗り込みたい」
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