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一、浚われる日常。
空にはもう大きな満月がぽっかりと浮かんでいる。
コンビニに夜食を買いに来たついでに、通帳の残高を見て思わず溜息が出てしまった。
「頑張って働いているんだけどなあ」
貯金はおろか、今月の生活費さえ厳しい状態だった。
高校を出てからずっと働いているヘアサロンでは、やっと副店長まで上り詰めたけれど、給料はほぼ変わっていない。
それに加え、一年ぐらい前から変なストーカーに付きまとわれて、引っ越しを三回したが部屋に必ず侵入されてしまう。
鉢合わせしたことはないけれど、夜寝るのも怖くて、とうとう身分不相応なオートロックの、一階に管理人がいるマンションに引っ越した。
管理人さんがいるおかげで今はまだ部屋を荒らされた痕跡はないけど、給料の大部分が家賃に飛ぶのは痛かった。
「店長に昇格すれば少しは違うんだろうけど……」
今度、隣の市にまたお店をオープンさせるとは言っていたけれど、俺は声をかけられないだろう。
店長のお気に入り――と言われたら良い気がするが本当はタダのパシリだしな。
自分の不幸体質と言うか、自分から不幸に飛び込んでしまう体質が嫌になる。
中学の時に親が離婚した時、お互いが俺を引き取ることを嫌がり、とっとと再婚して全く俺に会いに来ないどころか居ない扱いを受けたのはもうしょうがないけれど。
大部分の学費を自分で貯めなければいけないのはきつかった。
お金はないけれど、家に置いてくれた父方の祖母も、段々寝たきりになって介護はほぼ俺がした。
思い出しても――今まで楽しかったことが思い浮かばない。
「ボーナスまで苦しいけど、頑張らなくちゃ」
ガッツポーズで天を仰いだら、真正面からサイレンの音が聞こえてきた。
「火事だ――!!」
その声に俺は前を見るが、煙はすぐ近くから湧きあがっていた。
「まさ、か」
こんな時の嫌な予感は当たるから怖い。
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