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サイレンは聞こえるけれど、まだ消防車は到着していなかった。
代わりに、近くの交番の警察官が避難を誘導していた。
その警察官二人は、顔見知り――というかストーカー事件で何度か御世話になっていたし、家を荒らされた時に現場を見てもらっていた。
燃えているのは、俺が働いているヘアサロン『RIG』がテナントで入っているビルだ。
丁度燃えているのは、『RIG』。
思わずコンビニの袋を地面に落とすと自分も膝から崩れた。
一瞬で人は地獄へ落とされる。
でも、それは――俺の場合、自分が悪かったことは一回もない。
いつも巻きこまれるんだ。少なくてもそう思っているのに。
「愛沢!!」
座りこんでいた俺の胸ぐらを掴んだのは、目が血走ったヘアサロンの店長、葉山さんだった。
「通報があったんだよ! お前がコンビニへ行ってすぐにお前のストーカーが火を放ったってな! お前が!お前が俺の店を」
ストーカー。
その言葉に鼓動が速くなる。
俺が店に居ると思って火を放ったのだろうか――。
「ちょっと顔が綺麗だからって! 要領の悪いお前を傍に置いていた俺が馬鹿だった! この疫病神! お前がどうせその容姿でたぶらかしたんだろう!」
葉山さんは、燃え上がる自分の店を見て、完全にパニックに陥っていた。
泣きながら、俺へその怒りをぶつけている。
「すいません」
そう言うしかない。
「上のテナントや隣のビルに火が移れば――どんだけ賠償しなきいけないのか! お前に払わせるからな! 裏口を開けておいたお前のミスだ!」
そうだった。
葉山さんも俺も残って作業していて――コンビニへ行くのだからすぐだし鍵は良いからって言われて俺も素直にその言葉に頷いた。
俺のせいだ。
「お前みたいな高卒の、容姿だけの馬鹿なんか雇うんじゃなかった」
葉山さんの拳が振りかざされて、俺は思わず目を閉じた。
その時だった。
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