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第269話

「……此処から通えないような場所をわざと選んだな」 「違いますよ。此処は高級住宅街だから、どこも遠いんですって」 「お前が居ないと、俺の飯は誰が作るんだ」 暗に行くなと反対しているわけでは無く、これは拗ねてるんだって分かる。 言葉が少なくて表情も怖い立花さんが、拗ねてるんだって分かるのはきっと俺とか寒田さんぐらいだろうなって思う。 「自炊、しますか? 俺、教えますよ」 「お前の作った飯が良い」 「俺も焼くだけとかカレーとかぐらいですけどね」 「それでも榛葉がいい」 こんな言葉が聞けるようになるなんて。 最初の頃の死にたいと思っていた自分からは想像ができない。 感謝してもしきれない。 「あの着物を、俺自分出来るのを目標にしてるんです。自分で着て、――満月の夜に貴方に脱がせて貰いたい」 立花さんには幾度よなく抱かれてきたけれど、なあなあではなくちゃんと正式に。 「その時は、立花さんの気持ちを聞かせて下さい」 俺のその真っ直ぐな言葉に立花さんも真摯に頷いてくれた。

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