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第296話
「そんな、乱暴な言葉は――」
「こんなじじい、もう充分だろ。今までずっと好き勝手して来たんだ。最後まで幸せに浸らせる必要もないだろ」
「粋がってるガキは好きじゃねえが――姐さんに一途そうだし、まあ、よしとするか」
佐之助さんは、そんな立花さんを見て嬉しそうだった。
――俺は切なくて仕方が無いのに。
「姐さんはその人で本当に言いのかい? 後悔はしないかい?」
佐之助さんが、俺を通してゆかりさんを本当に心配していた。
実の兄のこととはいえ、――本当にゆかりさんを気にしていたんだろうな。
「はい。この人と結婚します。後悔しませんよ」
彼の服の袖を掴み、寄りかかると俺は微笑んだ。
後悔はしない。
自分でちゃんと決めて、今度は俺が俺の意思で彼の元へ行くんだ。
「そう言う事だ。さっさと眠っておけ」
立花さんは最後まで立花さんだったけれど、佐之助さんも笑顔だった。
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