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第312話
Side:愛沢 榛葉
起きたのは、もう昼――というには少しだけ遅い時間だった。
隣で、無防備に眠る優征さんの下ろしている髪をそっと触る。
いつも隙のないピシッとしたセットが崩れ、前髪が揺れているのを見ると、確かに年下らしい幼い姿が垣間見えた。
起きよとして上半身を上げたら、腰が鈍く重く、あの部分がヒリヒリと痛んだ。
なので、諦めて優征さんの胸の中に収まり抱きつきながらまた眠った。
次の朝、俺と優征さんはベランダに出て、用意をした。
「貴方の髪を切らして貰ってもいいですか?」
そう答えると、不器用な彼は『好きにしろ』とだけ言ったけど、ベランダに椅子を持って来てくれた。
ベランダの椅子に座りケープを優征さんに被せて、俺はハサミを持った。
「特別にお代は――後でで良いですよ」
「いらないとは言わないのか」
「ふふふ。だって、優征さんに我儘を言ってみたいんだもん」
「俺の方が年下なのだが」
悔しそうにそう言う立花さんについつい笑ってしまいながらも、俺はシザーケースを並べて用意する。
「榛葉」
引き寄せられた腕に、そのまま安心して身を任せると太陽に隠れるように小さくキスをした。
fin
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