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第320話
「おかえりなさい」
俺が開けると同時に、優征の秘書の菊池さんが飛び出してきた。
「お、お帰り~。ヒメハジメに間に合ったんじゃない?」
「ひ?」
「余計な事は良いから、さっさと消えろ。あと3日まで連絡して来たら解雇する」
相変わらず横暴を通り越して無茶苦茶な優征の対応にひやひやしながらも、菊池さんも相手にせずににこやかだ。
「それと、お年玉。はい」
「えっ ありがとうございます」
俺、28歳です。
そう言おうとしたけど、多分いつもの菊池さんの冗談だろうと気にしなかった。
「遅かったな」
「ごめん。残業で」
お年玉を開ける暇もなく、優征に申し訳ないと見上げると完全に拗ねているのが見えた。
困ったな。
「今から三日まで、仕事禁止」
俺の髪をひと掬いし、口づけすると、そう偉そうに言う。
「あと、知らないやつから蜜柑が段ボール一個届いたぞ」
「えー、誰だろ。って蜜柑は廊下に置いておいてよ。暖かいリビングは駄目――」
と言おうとして、優征にいきなり脈拍もなく抱えられた。
「うるさい」
そのまま靴をぺいぺい玄関に投げ捨てて、リビングへ向かった。
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