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第1話
ふと目を開けると藍染有希は半透明の世界でたった1人寝転んでいた。
とりあえず起き上がりあたりを見回してみるが静寂以外にはこれと言ったものはなく人の気配もなかった。
しかし、有希は不思議とこのへんてこな世界が嫌いではないことに気がついた。
それにしてもここはどこなのだろう…?
自分以外に生き物の気配はなくそもそも光景が現実のものとは思えない。
どこまでも続くクリスタルの道のような…。
と、そこまで考えたところでふいに有希はハッと息を呑んだ。
そうだ…宮川警部は…!?
彼の脳裏には昨日-正確には今日がいつか分からなかったが彼の記憶で言う昨日-のことが鮮明に描き出された。
有希と宮川警部はあるテロ事件の捜査でペアを組んでいた。
宮川警部は捜査一課のキャリアの長い警部で有希は所轄の刑事だ。
有希は前回連続強盗殺人事件犯人の逮捕に貢献したとしてその業績を認められ宮川警部と一緒にテロ事件を担当していた。
この事件の概要としては目出し帽をかぶった男が先月から2週間おきに1回ずつ人質をとってモールに立てこもり挙句その人質を殺して逃げるテロを3回も行った、というものだ。
犯人は捕まっておらず捜査一課はピリピリとしていた。
そんな中有希が被害者の共通点を探り出身中学校が同じ、という点に目を向けて捜査したところ殺された3人は昔中学校でイジメをしていた3人で、1人の生徒を死に追い込んでいたことがわかった。
報告によるとイジメは4人で行われていて今まで殺害された3人は取り巻きでイジメの主犯はまだ殺されていないということだった。
宮川警部と有希は前回の犯行から2週間たった昨日-正確には今日がいつか((以下略-、犯人の移動経路から次なる犯行現場を予測し張り込んでいたところそこに銃を構えて人質を取った男が現れた。
この男が今回の無差別テロに見せかけた連続殺人事件の犯人であり、昔親友が4人にイジメを受けて自殺した高山光輝であることは捜査で判明していた。
実は有希は2回目の現場に非番で武装もしていなかったものの立ち会っていて、銃殺される被害者を前に為す術なく犯人を取り逃がしたことがあった。
そのため、取り逃がした時のイメージに囚われて一瞬身体が硬直した。
しかしキャリアが長くいつでも冷静沈着な宮川警部は即座に銃を構えて高山に投降を呼びかけた。
「高山だな!武器を捨てて投降しろ!ここでイジメの主犯を殺したところで彼は戻ってこないし喜ばないだろう!」
しかし高山はイジメの主犯の首を腕で締め上げつつ逆上した。
「うるせえ!お前らに何が分かる!そのまま銃を構えたままこいつが殺されるのを見ていろ!」
そしてやにわに人質に突きつけていた銃を宮川警部に向けて発泡したのだ。
有希の記憶はここで途絶えている。
確か、やっと動くようになった身体で宮川警部を守ろうとしたような気がするが何も思い出せない。
宮川警部は無事だったのだろうか…?
考え出すと際限なくそのことばかり考えてしまう。
有希はふと冷静になってそんな自分を不思議に思った。
なぜこんなにも宮川警部のことが気になるのだろう?
有希は宮川警部について知っていることを考えてみた。
普段は幻覚で冷静であまり鑑賞はしないながらも部下やパートナーに気遣い、フォローを忘れない。
犯人を取り逃がして落ち込んでいた有希に有希の好物であるいちごオレをくれた。
あの時はなぜ好物を知っているのだろうという気持ちと知っていてくれたことへの嬉しさで複雑な気持ちになった。
そして言わずもがな彼はモテモテだ。
顔良し性格よしとくれば女たちが放っておかないし女たちが騒ぐのも無理はない。
警察に就職してあまり婚活の機会がない何人もの婦警たちが彼を狙っているらしい。
捜査二課のかわいい子が有力ライバルなのだと警視庁内で捜査一課勤属と思われる婦警が嘆いていたのをすれ違った時に耳にした。
突然胸が締め付けられるように痛くなり有希は自分の感情に戸惑った。
僕はモテモテの宮川警部に嫉妬しているのだろうか…?
しかしそれはどうもしっくり来ない。
僕は宮川警部を尊敬しているしモテて当然だと思う。
では彼を狙っている(そしてボディタッチしただの話しただのでいちいち盛り上がる)女性たちに嫉妬してるとでも言うのか?
あまりにも突飛な考えなので鼻で笑い飛ばそうとして…できなかった。
心臓がさっきよりもうるさく音ををたてている。
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