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第1話

 窓が無い部屋は少しばかりの圧迫感を与えてくるが、この部屋の論点はそんなところではない。真っ白の壁紙が眩しい部屋の真ん中に存在感を放つキングサイズのベッド。海の色を思わせる天蓋付きのそれを、岡崎尊は気にいっていた。 「なんかエーゲ海風なんだって」  手を引いてここまで連れてきた背の高い男を振り返ると、表情を出さない目が困ったように細められている。 「岡崎君、俺は――」 「俺、ここお気に入りなの。初めての人とやるときは絶対ここにしてるんだよね、風呂デカイよ、見る?」  鼻唄だって出てきそうな程に機嫌よく風呂に通じるドアを開け放し、後ろの男――奥寺浩輔に披露してみせた。別に自分の部屋だという訳ではないが、愛用しているラブホテルの部屋の趣味は悪くないだろうとドヤりたいのが本音だ。 「奥寺さん、先に入る?」 「いや、俺は構わない」 「おっと、汗が好きなタイプ? 意外だったな」  意外といえば、奥寺がゲイだというのが最大に意外だ。普段の奥寺からはそんな雰囲気を全く感じなかった。馴染みのバーで姿を見たとき、尊の心臓は驚きと同時に歓喜で跳ね上がったのだ。  くるりと奥寺に向き直り、アイドルのようだと形容されるとびっきりの笑みを向けてみせる。容姿には自信があった。  顔が小さいのは生まれつきで、その上にはバランス良く配置された大きな猫目と厚めの唇、男らしさとはかけ離れた中性的な顔立ちだが、今はそういう薄い顔が流行していることは百も承知だ。細くて癖のない髪は色素が薄いのか染めていないのに栗色なので、学生時代は風紀チェックで苦労した。  仲間うちではあまりモテないので、尊は恋の相手を見つける為に、いつも自ら動く。中性的なことがハードルを少し下げるのか、男が初めてという人には割と評判がいい。それは「初物食い」が好きな尊にとっても都合のいいことだった。

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