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第10話
「君のおかげだ」
「そう、よかった、あっ、でも、俺、男好きだけど、いつもは抱く方で、その、慣れてないし、その」
奥寺の唇が首に触れて、知らず喉から跳ねあがった。こんなこといつもならする方なのに、されるのは言いようもない程恥ずかしかった。
けれど、酷く、気持ちがいい。
「んっ、ああ、やべ、俺、声」
「可愛い声だ。聞かせて」
「え、嘘、あっ、やだ、奥寺さんっ」
セックスをしばらくしてないくせに、奥寺の手が口が簡単に尊をおいつめていく。勃起不全なんて嘘なんじゃないかと思ってしまう手管に、尊は信じられないほど鳴かされた。
「あっ、やっ、そこ、もう、いくっ!」
奥寺の手で達してしまった。慣れているはずの体が全然いうことをきかないから、まるで初な反応をしてしまったようで悔しい。せめて、この先はリードしたい、と尊の方からゴムとローションを用意した。
「奥寺さん、はめてあげる」
尊のおかげだという勃起したものにゴムをかけるのは誇らしい気分だった。でも、奥寺は本気で自分を抱く気なのかと、そっと顔を伺って見る。その表情が、暗かった。とても興奮している顔に見えない。奥寺は、何かを怖がっているようにも見えた。
――ああそうか。多分怖いんだ。
奥寺の罪悪感は妻に寂しい思いをさせたことと、一度は手を握らせた子供を守れなかったことだ。セックスはそれを奥寺に思い出させる。また守れないかもしれないことが、奥寺は怖いのだろう。
男同士だから、絶対に子供は生まれないのだけれど、そんなこと奥寺には関係ないのかもしれなかった。猛っていた奥寺のものが、少しずつしぼんでいく。ここでやめたら、きっと奥寺はもっと傷ついてしまう。
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