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第10話
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嘘みたいだ、夢みたいだ、その言葉ばかりが頭を巡って仕方がない。夢中で奥寺の咥内を味わいながら、気付けばカーペットに押し倒していた。見上げてくる奥寺の目が不安げに揺れている。
「あっ、ごめん、俺、つい嬉しくて」
怪我人相手に何をしているのかと肩をすくめる尊に奥寺が神妙な顔で呟いた。
「こういう意味で、俺は君を満たしてやれないな」
それは勃起しないからだ。そんなこと、尊には問題ではないが、セックスをすることが奥寺にとって苦痛ならしなくてもいい。でもそれはきっと、また奥寺を傷つける。だったら。
「もし、嫌じゃなかったら、俺が、抱いていい?」
奥寺は目を丸くして瞬いた。まるで考えたこともなかったように。
「俺を、君が?」
「体格の差なんてベッドでは問題じゃないって言ったでしょ?」
「――こんな体、つまらないと思うんだが」
そんなはずがない。尊はもう一度、奥寺の唇を塞いだ。今度はもっと深く咥内を貪る。上顎を舐めて、絡めた舌を何度も吸い上げる。奥寺がくぐもった声で呻くのがたまらなくそそった。湿った音を立てて唇を解放する。このまま奥寺の喉に舌を這わせ、鍛えられた上半身を愛撫する、つもりだったのに。
不意に起き上がった奥寺が尊の肩を掴んで、床に押し付けてきたのだ。あっという間に形勢逆転され、尊は声も出せずに目を見開いた。
「え、え、何、奥寺さん?」
「勃った」
「え、ええ?」
「君を、俺のものに、したい。駄目か?」
男に見下ろされたことなんてない。いつも尊が押し倒しているからだ。いつも穏やかな奥寺の目に、微かな獣の光を見て、背中から震えた。
「お、奥寺さん、勃ったんだ? よ、よかったね」
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