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第9話

 手に負えない傷を抱えていたとしても、飲み友達と思ってくれているとしても、もう、ごまかせない。 「すみません、やっぱり俺は、奥寺さんが好き。凄い、好きなんだ」  言い終わると同時に奥寺の胸から引き剥がされて目を閉じる。今度こそ、決別宣言でもされるのかと思うと息ができなくて握った手の平に爪を立てた。 「尊君」  呼ばれて恐る恐る目を開けると、奥寺の顔がやけに近い。何なのだと思うよりはやく、唇が触れた。奥寺の薄めの唇が尊の唇と重なって柔らかく啄まれる。目を見開いているうちに触れるだけの唇は離れてしまった。 「え、な、に」  何度も瞬く尊に奥寺はそっと囁いた。 「俺も、君が可愛くて、愛しいと、思うよ」  聞き間違いかな、と首を傾げると、同じ言葉が繰り返された。照れくさそうに目を伏せた奥寺が、尊の手を握った。その熱が言葉が嘘でないことを教えてくれる。 「本当に?」 「ああ」 「じゃあ、キス、もいっかいしていい?」  答えの代わりと言わんばかりに奥寺から唇を重ねられ、尊は夢中でその口を吸った。嘘じゃなくても夢かもしれない、だったら目いっぱい堪能したい。  奥寺の唇をこじ開けて中に入り込むと、控え目な舌がそっと絡んでくる。 「んっ」  その熱が嬉しくて強く吸うと、奥寺も小さく呻いた。その押し殺したような声が色っぽくて、ぞくぞくと背中から震えた。

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