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第11話

「だから二人でいるんですよ。一人では怖くても彼の手を握っていれば、きっと怖くないでしょう」  それまで黙っていた奥寺が不意にそう言って微笑み、彼女が小さく、はい、と答えた。それを待っていたように下元がわざとらしく手を打って、笑う。 「じゃあ、弁償代わりに、お二人の結婚式の二次会、うちで貸し切りにするってのはどうかな。まあ、ノーとは言わせないけどな」  下元の言葉に二人は顔を見合わせて、こぼれそうな笑顔を浮かべた。  手を繋いで店を出ていく二人を見つめながら奥寺が下元の肩を、叩いて面白そうに言う。 「気の利いたことするじゃないか」 「まあ、結果オーライってな。お前もヘマしてんじゃねえよ、なんだ怪我なんかして」 「悪かった。次から気を付ける」 「じゃなくて、そういうのは尊にまかしときゃいいんだ」  なあ? と首だけで振り返られて、尊は何度も大きく頷いて見せる。 「さ、店開けるぞ」  下元の音頭で平常営業に戻る為各々が動きながら、ふいに奥寺と目があった。  ――二人なら怖くない、か。  それは尊が奥寺に言ったことだ。奥寺もそう思ってくれていることが嬉しい。微かに笑う奥寺に尊は満面の笑みを返して見せる。 『君の笑顔には、敵わないな』  奥寺がそう言ってくれることを願いながら。                                            終

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