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第11話

 ◆ 奥寺の怪我は左手だったことも功を奏して二日後には店に立てた。あのあとは下元が手腕をふるってなんとか立て直したらしいことは有巣から聞いた。 「大変だったんだから」  有巣の愚痴に深々と頭を下げて今度飲み代を奢ることで許してもらえた。  許してもらえたといえば、あのカップルが謝りに来たのは店をオープンしてすぐだった。強気だった彼氏が驚く程背中を縮めてしょんぼりしているのには驚いたが、下元と彼女にこんこんと叱られたらしい。 「本当に申し訳ありませんでした」  下手すれば奥寺の手は酷いことになっていたのだ。許すことはできないと尊は思ったが、奥寺はあっさりと二人を許してしまう。  ――まあ、そうだと思ったけどさ。  釈然としない尊の前で、奥寺が優しくカップルに語りかける。 「何故、あんな喧嘩になったんですか?」 「あー、その、俺が彼女にプロポーズして、でも全然OKしてくれなくて。それなのに、その、店員さんカッコいいとか言うから頭に血が昇って」  彼氏がちらりと尊を見て、睨まれていることに気付いたのかすぐ視線を逸らす。代わるように彼女が深々と頭を下げている。 「本当にすみません」  しかしカッコいいと言われたら悪い気はしないし、怒る彼氏の気持ちが分かる。 「いや、それは駄目じゃん、彼氏怒るよー。困ったな、俺がカッコいいからだったのか」  頭をかく尊の背中を下元が小突く。 「調子に乗るな。とにかく、こちらとしては迷惑をかけられているんで、このままってわけにはいかないね」  どすをきかせた下元の声が怖くて、ちょっと大人気ないんじゃないのと思ってしまうのは、甘いだろうか。カップルも肩を震わせてうつむいてしまった。追い打ちをかけるように下元が続ける。 「彼女さんは、まだプロポーズ受ける気ないのか? なんでOKしないんだ?」 「それは――怖くて。彼を幸せにできるか不安で、それで」 「なんだよそれ、俺は幸せにしてくれなんて言ってねえだろ」  他人を幸せにできるかなんて、誰にも分からないし皆怖いだろうけれど。

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