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ケチんぼお兄さん

 それから、ひたすらにナッツの歴史を語り続ける店長の話を軽く流しつつ、僕はこんな事を考えていた。  美月さんは、どういう気持ちで僕に連絡先を教えたのだろうか。一つは、カフェでの話が本当の事で僕とまた会いたいと思ってくれている。もう一つは、あの連絡先は美月さんの物ではなく、別人の物で僕が勘違いをする様子を笑うため。  どちらにせよ、僕はスマートフォンを持っていないから、ラインアイディーは使うことが出来ない。  僕は前者でいて欲しいと信じてはいるが、全てが僕の都合よく進む訳ではない。後者である場合の心の準備もしておかなければならない。  あの優しい美月さんがそんなひどい事はしないと思うが、この三年間で普通に人が生活をしていて得られない事を山の様に得てしまったからか、昨日今日の人を心の底から信じられなくなってしまったのだ。  店長が気を遣ってか、本気の熱意かは分からないが、もし、気を遣ってなら本当に申し訳ない。店長を傷つけてしまったのは僕なのに、僕はこんな状況になっても自分の事しか考えれないのだから。今まで店長に散々お世話になっているのに。  そしてきっと、店長は僕が話を半分程度しか聞いていない事に気づいているだろう。  そして時間は過ぎ去り、店長はとあるショッピングモールの駐車場に車を駐めるためにグルグルと駐車場内をゆっくり走り続けている。僕はてっきり、独立店舗だと思い込んでいたが、ビルイン型店舗だったのだ。ということは、結構有名店なのだろうか。  それから少しして、空きを見つけてすかさずそこに車を駐める店長。そして、車から降りると例の如く車内と外の温度差で頭がクラッと。 「ショッピングモールに入ってるんだね」 「そーなんだよ。今年から入ってくれないか〜って言われたんだってよ」  入り口を抜けると、平日だからか多くもないが少なくもない人数の人が各々買い物やお喋りを楽しんでいた。  僕たちは他愛の話をしつつ、近くにあったエスカレーターに乗り、二階へと向かう。 「俺の用が終わったらよ。あとで服でも買いに行こうか」と、店へ向かう店長は、歩く途中にあったフニクロ見て言ったのか、元々考えていたのか分からないが、そんな事を言ってきた。 「え、でも別に今ほしくないけど…」 「ダメだって。お前いっつもパーカーとかシャツばっかだろ。見てて飽きた」 『見てて飽きた』って、当本人の僕は全くもって飽きてはいないのだが…。でも、せっかく来たなら何か僕も欲しいと思い。 「じゃあ、買ってくれる?」と、賭けに出てみた。  すると、店長は目を瞑り眉間にしわを寄せ、「ん〜〜」と、少々唸り続け、「わーったよ。だが、一万以内な」と人差し指を立て僕を見て言った。 「え〜、ケチだな〜」 「贅沢言うなっ。買ってやるんだから感謝をしろ!感謝を」と、僕の頭を軽く殴る。  僕たちが笑っていると、店にはあっという間に着いた。

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