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店長とナッツ
今向かっている店は『ノーチェ』という名で、日本でも珍しいナッツ専門店である。ちなみに『ノーチェ』とはイタリア語で『ナッツ』という意味だそうだ。
今まで数々の種類のナッツを食べてきて、最終的にたどり着いたのがこの『ノーチェ』だったみたい。僕も何度か口にしたことはあるが、その良さはイマイチ分からない。
それを店長に伝えると「そのうちお前もあの味の良さが分かるって。あっじゃあ、食べ比べるか。コンビニのとあの店の」と提案をされ、その比べるためのナッツを買うためにコンビニに寄っている。ついでに、僕はぶどう味のグミとお茶を買い、車に戻った。
「仲良いの?。そこのお店の人と」
「おう。ノリも良くていい奴だぞ〜。おまけに顔も良い」信号で止まり、それと同時に僕の顔を見て言った。自分のことかのように嬉しそうに。
「なるほど…」と思いつつ、「結局顔かよっ」と言った。
「そんでな、酒呑んだらベロッベロになって、結構面白れぇんだよ。あっ、動画見るか?」
ナッツの話と比べ物にならないくらい、目を輝かせて話していた。テンションが上がっているのだろうか、少しばかりか運転が荒くなっている気がする。
そして、「相当大好きだな〜」なんて思いながらも、「じゃあ、後で見せて」と返した。
「おうっ、じゃあ、どれ見る?。俺の店のやつ?、俺の部屋のやつも面白れぇんだよな。あっでもよ、高橋の部屋の綺麗っぷりもいい感じに写ってるやつもあるけどよ。なぁ、どれにする?」
「…。やっぱいいや」熱が暑い。僕の右側全体が暑い。
だから僕は、車内のクーラーの温度を少し下げた。
「はぁ、何で!」
「自分の大事なものは、自分だけにとどめておくのが良いからさ」
そう言うと、店長の熱は急激に下がり、「はぁ?。な、何言ってんだよ」と、あからさまに隠しきれていない動揺で、僕の肩を強めに叩き、運転し始めた。
それから少しの沈黙が続いた。
先に沈黙を切ったのは、店長だった。
「…高橋はさ、普通なんだよ」そう小さく言った横顔は、とても冗談を言えるような顔じゃなかった。
「そっか」
店長のためとなる言葉が見つからない。僕は、こっち側の人しか好きになっていないから、店長の気持ちになったことはないが、でも、分からない訳ではない。
今までずっと僕の相談は聞いていたのに、自分のことは話さず、一人で抱えてたと思うと、申し訳ない気持ちが溢れてきた。
そこからは、また沈黙が続いた。
今度は、先に僕が沈黙を切った。
「ごめん」
僕が高橋さんの話を切り出さなければ。知らなかったからでは済まないかもしれない。せっかく店長が誘ってくれたのに。
「何で碧が謝んだよ。俺が要らねぇこと言ったからだよ」
「違うって…」
また、言葉が見つからない。
「…はいっ!。この話終わり!。今からナッツの歴史について喋んぞ!。よく聞いとけよ〜」
変に気を遣わせてしまった。
やっぱり、僕は付いてこない方が良かったかも…。
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