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伊達眼鏡

「それじゃあ。いつでも連絡して」 「はい。ありがとうございます」  そう言い、美月さんは駅の改札を抜けた。姿が見えなくなる寸前に、こっちを振り返り微笑みが送られてきた。そして僕も、そっと返した。  美月さんの姿が見えなくなり、少しの寂しさとまた会いたいという感情が入り乱れる中、僕は店長の店へと向かった。  カランカランと、安心のベルがまた鳴る。 「おうっ。どうだった?」  そっと店長の前のカウンター席に座り、「いろんな意味で泣きそう」と両手で顔を覆った。 「嬉しくて?、悲しくて?」 「どっちも」  顔を覆っていて少し息がしづらい。そして、目には熱いものこみ上げてくる。  やっと、三年ぶりに会って、話す事ができて、嬉しい気持ちの反面、どうしたらいいのか分からない感情が入り乱れて頭が破裂しそうだ。 「そのまんまだと窒息死すんぞ」と。指の隙間から僕の前にハンカチを置いてくれたことを見て、それを手に取り、涙を拭った。 「今から買い物いかねぇか?。ナッツがきれそうでよ」  唐突すぎて驚いた。タオルを少し下げ、店長を見た。店長は「何か?」と言わんばかりの顔をしていた。  まさか、この状況で出掛けないかと、言われるとは思ってもいなかった。 「目の腫れが気になんなら、俺の眼鏡かそうか?」 「行く前提で話が進んでる…」と思ったが、店長にも悪いから顔には出さなかった。今は、せめて一人にしてほしい。いつもの店長なら、裏で休ませてくれると思っていたのに。 「眼鏡取ってくるなー」そう言って、裏に行ってしまった。 「…どうしよう」  こんな気持ちのまま行っても、店長に気を遣われるだけなのに。どうしたんだろう店長。 「ほいほい。ちなみにこれは伊達だから気にすんな〜」 と言いながら、帰ってきた。そして、僕の目の前で眼鏡を持っていた。  僕はそれを何も言わずに受け取り、しっかりと涙を拭い、ゆっくりと眼鏡をかけた。黒縁の太くもなく細くもない眼鏡は僕に合っているのだろうか。 「お、結構似合うじゃんっ」と言い、そのまま店を出ようと扉の取っ手を握り、僕の見る。  目線にやられ、僕は席を立ち、店長に続いて店を出た。

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