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少女漫画の主人公

 気がつくと、話し始めてから一時間半が経っていた。徐々にお互いのぎこちなさはなくなり、話の合間には笑みが溢れるほどの余裕も出てきた。 「そろそろ、帰ろうか」と、美月さんが切り出す。 「そうですね。今日は楽しい時間を、本当にありがとうございました」  話している時の美月さんは、僕から見ると本当にこの空間を楽しんでいるように見えたが、これを客観的に見ると、僕に合わせて空気を作ってくれていたのかもしれない。それに僕が気づかないように、演技をしていたのならば。  そう考えると、「また、会えますか?」と、言い出せなかった。  この場から早く去りたくて。早く一人になって泣きたくて。席を立った。 「あっ、待って。…、また今度会おう」と、カフェの説明書きがされてある小さな紙の裏に、ラインアイディーと電話番号を書き、すぐさま立って僕に渡してくれた。その時には、優しい微笑みが。  そして、会計へとスッと歩いて行った。  受け取ってしまったが、「…期待していいのかな」なんて思ってしまうよ。  少しの間、もらった紙をを見つめ、直ぐに美月さんを小走りで追いかけた。  店を出ると、美月さんは駅に向かうとのことで、それに僕も付いて行くことにした。僕は特に家がないので、帰る当てもないのだが、少しでも美月さんと一緒にいたいという少女漫画の主人公の様な感情を抱いてしまっているが、それもきっと今だけの感情。浸れるだけ浸っておこう。

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