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本当の再会

 僕の席からは、カフェの入り口扉がまっすぐと見える。  次の瞬間扉は開き、現れた人は、美月さんだった。しかし、正確には『美月さんと思われる人』ではあるが。  店長は、僕の反応を見て、「来たか」と小さく呟く。それに対し、僕はうなずいた。 「例え自分の感覚で美月だって分かっても、絶対ホテルとか行くなよ。初日は絶対ダメだ。下手したら、またお前が傷つくことになるぞ」と、小声で僕に言った。  その言葉は、僕の心にじんわりと染み渡っていった。昨日のことを教訓に、今日は何が何でもホテルには行かない。  そんなことを自分に言い聞かせていると、店の入り口で店内をキョロキョロと見回している美月さんだと思われる人と、ふと僕は目が合った。  驚きのあまり、目を離すことが出来ず、じっと見つめてしまった。その時、美月さんだと思われる人も驚き、次の瞬間何かを呟いた。  そして、ゆっくりなのに早く感じる速度で美月さんと思われる人は僕らの座る席に着いた。 「碧君…、だよね」  僕の本当の名前を知る、数少ない人にやっと出会え、また涙を流しそうになる。美月さんだと思われる人も、どういった感情かは分からないが、指先は小刻みに震えていた。  そして、溢れ出る感情をグッとこらえ、「美月さん、ですよね」と、質問を投げかけた。 「そうだよ。待ち合わせ相手は、君だったんだね」  確証は何処にもないが、この人が本物の美月さんなんじゃないかと僕は思った。 「あ、すみません。俺、用事思い出したんで帰りますわ」と、店長は財布から千円札を取り出し、僕の前に置いた。僕の「えっ」という反応に対し、少しの微笑みを返し、席を去った。 「ごめん、お取り込み中だった?。なら、俺は帰るけど…」 「いやっ、僕がただ一人が不安で、あの人は付き添いに来てくれただけなんです。…あっ、すみません。座って下さい」  この状況にどうしたら良いのか分からず、うつむくことしか今の僕にはできない。 「なんで、店長帰っちゃったんだよ…」  心でそう思っても、既に帰ってしまった店長には届かない。 「ごめんね、三年間も一人にさせて。日向から聞いたけど、そんなに僕を待っててくれてると思わなかったよ」 「…三年間、何処にいたんですか?」  ずっと聞きたかったこと。この返事によって、これから先の僕の気持ちが変わる。  もし、恋人がいて、僕のことはサッパリと忘れていたら。  もし、僕のことは覚えていたけど、会いに行くほどではなかった。  もし、僕はただのあの日だけの関係だとしたら。  そんな事を考えると、思わず涙がこぼれそうになる。 「俺、画家をやってるんだ。それで、あの日から二週間後くらいに、ロンドンで個展を開くことになってたんだ。そこに行っていて、それからもあっちで仕事をして、帰って来たのが丁度昨日だったんだ。この三年間、本当に君を忘れたことは無かったんだ。ただ、俺の一方通行だと思ってて。実は昨日、ハチ公前に行ったんだ。でも、君はいなかったから…。てっきり、辞めていたものだと思っていたんだけど…」 「やってますよ。 …昨日はお客さんがいたので、だから…。画家さんだったんですね。カッコ良いです」  この話が本当ならば、僕らは『両思い』だったということになるのだろうか。 「ありがとう。…碧君は、今は独り身なのかい?」  思いもよらない質問が来、「は、はい」としか言えなかった。 「そうか」と。気のせいだろうか。美月さんは少し微笑んだ気がした。だとするならば、僕は期待をして良いのだろうか。 『例え自分の感覚で美月だって分かっても、絶対ホテルとか行くなよ。初日は絶対ダメだ。下手したら、またお前が傷つくことになるぞ』  その時に、店長の助言が頭に浮かんだ。  ダメだとは分かっていても、今回に限っては、心の底から『触れたい』と思う感情が大きい。  でも、その思いを押し殺し、場をつなぐために他愛のない話をし合った。  目の前に触れたい人がいるのに、触れられないのはなんとも言えない気持ちである。

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