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【見夏編】第2話
【見夏サイド】
11年前──…今でも覚えてる……あの夏の日のこと。
知らないおじさんが何人もいて、俺を囲むように……それから、なめ回すように見つめてきて──…それから。
乱暴に押さえつけられて、必死に逃げ回ったけど……だめで──…俺は。
「……助けて…」
そう呟いた時、俺は意識を取り戻し、淡い体温を感じた。
その体温の正体は人肌で、俺は抱き締められるようにして、ベッドに横たわっている。
俺を抱き締めている人の正体は分かる。
──…教え子。かつセフレでもある彼。
「なぁに、……見夏センセ、もう目覚めちゃった?」
「ごめん……その…起こしちゃって」
「いーのいーの。無理させちゃったこと知ってるし」
11年前、一色高等学校近辺に発生した強姦事件、俺はその被害者である。
極悪な手段で男子中学生を犯し、ネットニュースでも話題となり、俺自身身体に染み付いたトラウマが消えずにいる。
そして俺を抱き締めている教え子兼セフレは加害者の……息子である。
狂ってるようで、この歪な関係は、償いの為に存在していることはよく分かる。
その証拠にこいつとの身体の相性は格別によく、一回するだけで蕩けてしまいそうになる。
──俺が、あのときのこと忘れさせてあげるくらい、いいセックスをするから。
こいつはそう言った、実際にいいセックスをしてもらってる、何回でもしたくなる。
けれど1度染み付いたトラウマは離れずにいて、時より怖くなる──…自分を殺してしまいそうになるくらい。
死にたい、この世から自分がいなくなればいいのに。
なのに勇気が出ないのはきっと……こいつがいるから。
* * *
北城百田は、お世辞にも学校ではいい生徒とは呼べない。
暇があれば授業中に寝るし、髪は染めるし、サボり癖もある。
おかげでお咎めあり……正直こいつに抱かれてセックスされてるのが信じられないくらい。
「見夏先生からも何か言ってやってくださいよ~。授業にはちゃんと出ろって…」
「あはは……でもこの調子じゃ、難しそうですね」
「いやいや、何を言ってるんですか。今のところ皆勤無欠席は見夏先生の授業だけ。……魔法でも掛けてるんですか?」
「その魔法があればいいんですけどね……」
きっと俺が被害者でセフレなのを気にして、つまならないであろう俺の授業にも出てきてくれるんだと思う。
そう思うと彼はちょっとばかし、いい奴なのかもしれない……多分。
次の授業の準備をして、ちょっとだけ北城のことを頭に浮かべると、昨夜したセックスのことを自然と思い出してくる。
そしてそれに追い討ちをかけるように、背後から北城が表れて、俺の教科書をさっと奪った。
「暇だからもってあげる」
「そんなに重くはないんだけど……」
「知ってる。俺が持ちたい」
「……ならありがとう」
たまにこうして優しくしてくれるから、恨めずにいるのが現実。
そうやって二人の日常は過ぎていって、親密になっていっているのは、必然でもある。
だからたまにこの関係を不思議と思う。
だってセフレにしてはあまりにも距離が近い。
「そっち遠回りだけど……」
「まだ時間あるからいいじゃん」
「そういうものなのか……?」
「俺が歩きたい気分なの」
こうやって何気ない会話をして、笑いあって、ふと考える。
俺が死にたいってことを知ったら、こいつはどう思うのだろうか。
セフレをやめたいわけじゃない……けど、これは単なる好奇心……。
でも……不謹慎だけど、……泣いてくれる?
「ねぇ見夏先生」
「ん?」
「今日も家に行ってもいい?」
そうやって誘われることで俺はちょっぴり、自我を保っているのかもしれない。
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