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【見夏編】第18話
* * *
「北城っ……!」
明日の放課後、俺は普段肩を叩く北城を真似るように、彼を呼び止めた。
北城は珍しそうに目をぱちくりさせ、「なに?」と聞き微笑む。
その表情を見るたびに、俺は恋を重ねる。
……だから、言わなくてはいけない。
「北城が仁科の為にアンクレット渡したの知ったけど……」
俺はあの打ち上げの日の出来事を全て説明する。
1つだけ俺には、もやもやする部分が残っていたのだ。
それは北城がアンクレットを落とすとき、どうして舌打ちして嫌そうな表情を浮かべていたのか。
もしかしたら、もしかしたら、まだ……仁科に恋をしている可能性があるかもしれないから……。
北城はふっと微笑み、俺を抱き締める。
その抱擁には寂しさが含まれていなくて、ただ純粋に、俺に愛を伝えてるように思えて……。
自惚れてしまう。
生憎呼び止めた場所は、ほとんど誰も通らない廊下。
北城がそこにサボりに行っていることも知っていたし、だいたいここにいたら会えるし、人に見られない。
だから……まだ、離されたくない。
「ねぇ見夏先生、なんでそんな質問してくるの?」
「あっ……」
北城の息がふっと耳に吹き掛けられ、めちゃくちゃにされてしまいたい欲求が、全面的に出そうになる。
こんなことになるとは思わなかったが、ドキドキして、神様にありがとうと言いたい。
「まるで俺のこと好きみたいじゃん?」
「……っ、……その」
胸が酷く高鳴って、呂律が回らない。
けどこれでいい。
この方がきっと気持ちを知られずに済む。
「安心して、舌打ちなんかしてないよ。
きっともう一人誰かがいて、それが俺だと思ったんじゃない?」
「……」
──じゃあ俺は、夕陽と勘違いしてたのかも。
心に酷く安堵を覚える。
けど北城は意地が悪くて、「嫌な顔した理由は教えないけどね~」とにやにやしながら言うのだ。
けど、それが耐えられなくて。
好きな人のことなら知りたいって思って、我が儘になる。
お願い……教えて。
「やだ」
「……先生?」
さっきとは打ってかわって、真剣な、いや驚きの色を含む声を北城は出す。
相変わらずすっぽり胸元にはまった抱擁。
俺はすがり付くようにぎゅっと抱き締め返して、離れないように、なるべく強く手に力を込める。
「……はぐらかさないで」
気持ちが伝わったのか、溜め息をつく北城は、俺を更にぎゅっと抱き締める。
「……」
これじゃあどちらが年上なのか分からない。
いや、きっと年なんて関係ない。
好きなのは変わりなく、続いて欲しいと願ってるのは、俺の独り善がり。
ここまで来たら、もう引き返したくはない。
「本当は、あの日見夏先生がいたことに気づいてたんだ」
「うん……」
高い体温に、引き締まった身体に、格好いい表情。
それがぎゅっと俺を切なくして、次の言葉を待つ。
「先生と色んなことしてきたけど、どうしても俺寂しくなるんだ」
──知ってる。
俺が暗い表情をしてたとき、いつだって北城は抱き締めてくれた。
俺の寂しさを吸いとるように北城も、寂しそうだった。
「恋人になるその先のことまでしてきたけど、なんで振り向かないんだろうって思って……だから」
──ドキドキする。
北城の全てにドキドキする……。
嬉しい言葉をくれている。
「嫉妬させてみたくって」
「!」
その時、抱き締めている力が、ほどけるように一気に弱まった。
至近距離で見つめ合う二人に、邪魔など入らない。
だから酔いしれる──……この瞬間を、全て、彩るかのように。
「好きだよ、見夏先生」
夕焼けに照らされてきらきら光る君の茶髪が、俺の視界から無くなった時。
「……ん」
今まで以上に、いや、人生で一番………激しいキスを落とされる。
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