17 / 27

【見夏編】第17話

* * * 「そう言えば、千草先生と夕陽の馴れ初めってどんな感じなんですか?」 「確かに……」 「知りたいですか?」 午後8時、居酒屋。 生徒にバレない、少し遠い所をチョイスして、三人で恋について話していた。 秋斗と千草先生は同じ境遇にあるのか、話も弾んで、俺はすっかり聞き役に回っている。 「そうですね……まあ保健室登校はありふれたことではないので、最初は戸惑いましたよ、なんせこんなにも口が悪い子とは思いませんでしたから」 「……分からないことも無いですね」 いつの間にか千草先生は六杯目のお酒に手を出そうとしていた。 なのに1つも酩酊状態になることはなく、カランと氷の音と、話し声が響く。 「でも最初に好きになったのは、俺の方なんですよ。 一目惚れです」 ──…驚くほど美しい容姿を持つ夕陽。 目が大きい上に黒目が大きいため、まるでカラーコンタクトレンズを入れたかのような瞳。 唇は血色が薄く、中央から滲み出るグラデーションのラズベリーカラーは、本当に綺麗。 究極的に白い肌、たっぷりと蝶々が止まってしまいそうな長いまつ毛、いい感じにぷっくりした涙袋。 女の子だったらきっと、校内の噂をかっさらっていただろう。 だから千草先生の一目惚れは、必然だったのかもしれない──…。 「正直ラッキーとも思えましたし、悲しい気持ちにもなりました。 こんな美少年が俺の側にいてくれるなんて、嬉しくないはず無いでしょう?」 ──しかし、美人薄命と人は言う。 ふっと静かに俯く姿は、本当に大切に想っていることが、よく分かる。 千草先生は俺に視線を向けにっこりと微笑む。 その笑みは何かを企んでいるようにも見えて、少しゾクッとした。 「ふふっ……そう言えば、見夏先生って誰が好きなんでしょう?」 まるで質問に答えてあげたんだから、そっちも答えろと、言っているようで。 秋斗もわくわくしながら俺の答えを待っているようで、じっと俺を見つめている。 ……失恋したとは言ったが、誰とまでは言っていない。 夕陽は知っているが、それは現場を見たからだ。 ついに言わないといけないと思い、そっと好きな人の名前を出してみる。 「……きっ……き、北城が好きです……」 まるで膨らみ続けた風船が割れるように、恥ずかしさが増していき、限界に達する。 俺は思わず机に伏せたが、時既に遅し。 千草先生と秋斗はまるで男子高校生みたいににやにやして、バシバシ肩を叩く。 「……相馬先生、ここは俺たちの出番じゃないですか?」 「……千草先生、俺もそう思ってました」 ──妙なところでコンビを組むなぁ……。 千草先生も秋斗も、Sっぽいところがあるから、何だか自分が場違いに思えてくる。 「因みに北城には抱かれたい?抱きたい?」 「……抱かれたい」 「確かにそんな感じしますもんね~」 生憎俺は身長が低い。 低そうな雰囲気を醸し出す夕陽と仁科に近い、ギリギリの高さだ。 だから顔も少し幼顔で、北城に抱き締められるとすっぽり胸に埋まってしまう。 ……だから体格の良い北城には、純粋に抱かれたいって、そう感じる。 「やっぱり二人とも抱く側……?」 「逞が俺を抱けそうに見えるか?」 「時任くんには一生無理ですね」 ……あはは。 こうして飲み会と言う名の恋愛相談会は、俺が酔いつぶれてしまって、解散となった。 だから知らなかったのだ。 俺が酔いつぶれて寝てしまった時、二人で何を企んでいたのか……。 その企みはすぐ早く、俺の元に訪れるとは、永遠に思わないのだろう……。

ともだちにシェアしよう!