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【見夏編】第17話
* * *
「そう言えば、千草先生と夕陽の馴れ初めってどんな感じなんですか?」
「確かに……」
「知りたいですか?」
午後8時、居酒屋。
生徒にバレない、少し遠い所をチョイスして、三人で恋について話していた。
秋斗と千草先生は同じ境遇にあるのか、話も弾んで、俺はすっかり聞き役に回っている。
「そうですね……まあ保健室登校はありふれたことではないので、最初は戸惑いましたよ、なんせこんなにも口が悪い子とは思いませんでしたから」
「……分からないことも無いですね」
いつの間にか千草先生は六杯目のお酒に手を出そうとしていた。
なのに1つも酩酊状態になることはなく、カランと氷の音と、話し声が響く。
「でも最初に好きになったのは、俺の方なんですよ。
一目惚れです」
──…驚くほど美しい容姿を持つ夕陽。
目が大きい上に黒目が大きいため、まるでカラーコンタクトレンズを入れたかのような瞳。
唇は血色が薄く、中央から滲み出るグラデーションのラズベリーカラーは、本当に綺麗。
究極的に白い肌、たっぷりと蝶々が止まってしまいそうな長いまつ毛、いい感じにぷっくりした涙袋。
女の子だったらきっと、校内の噂をかっさらっていただろう。
だから千草先生の一目惚れは、必然だったのかもしれない──…。
「正直ラッキーとも思えましたし、悲しい気持ちにもなりました。
こんな美少年が俺の側にいてくれるなんて、嬉しくないはず無いでしょう?」
──しかし、美人薄命と人は言う。
ふっと静かに俯く姿は、本当に大切に想っていることが、よく分かる。
千草先生は俺に視線を向けにっこりと微笑む。
その笑みは何かを企んでいるようにも見えて、少しゾクッとした。
「ふふっ……そう言えば、見夏先生って誰が好きなんでしょう?」
まるで質問に答えてあげたんだから、そっちも答えろと、言っているようで。
秋斗もわくわくしながら俺の答えを待っているようで、じっと俺を見つめている。
……失恋したとは言ったが、誰とまでは言っていない。
夕陽は知っているが、それは現場を見たからだ。
ついに言わないといけないと思い、そっと好きな人の名前を出してみる。
「……きっ……き、北城が好きです……」
まるで膨らみ続けた風船が割れるように、恥ずかしさが増していき、限界に達する。
俺は思わず机に伏せたが、時既に遅し。
千草先生と秋斗はまるで男子高校生みたいににやにやして、バシバシ肩を叩く。
「……相馬先生、ここは俺たちの出番じゃないですか?」
「……千草先生、俺もそう思ってました」
──妙なところでコンビを組むなぁ……。
千草先生も秋斗も、Sっぽいところがあるから、何だか自分が場違いに思えてくる。
「因みに北城には抱かれたい?抱きたい?」
「……抱かれたい」
「確かにそんな感じしますもんね~」
生憎俺は身長が低い。
低そうな雰囲気を醸し出す夕陽と仁科に近い、ギリギリの高さだ。
だから顔も少し幼顔で、北城に抱き締められるとすっぽり胸に埋まってしまう。
……だから体格の良い北城には、純粋に抱かれたいって、そう感じる。
「やっぱり二人とも抱く側……?」
「逞が俺を抱けそうに見えるか?」
「時任くんには一生無理ですね」
……あはは。
こうして飲み会と言う名の恋愛相談会は、俺が酔いつぶれてしまって、解散となった。
だから知らなかったのだ。
俺が酔いつぶれて寝てしまった時、二人で何を企んでいたのか……。
その企みはすぐ早く、俺の元に訪れるとは、永遠に思わないのだろう……。
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