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第1話

◇ ◇ ◇ ◇ ―――格子状の窓の外から見える三日月が、とても綺麗だ。 まるで血のように真っ赤な赤い布が敷かれた廊下をゆっくりとした足取りで進みつつ、僕はそんな事を思いながら―――とある場所へと向かって歩み続ける。 (今夜が満月でなくて良かった、満月の夜は―――見境なく発情してしまうから気が重い……早く尹先生の元へ行って……あれを頂かなくては……) ―――発情期。 Ω特有の忌々しい現象だ―――。 満月の夜になると、Ωは見境いなく誘発香を体から漂わせ無差別に周りのαやΩを発情させてしまう。僕はΩだから誘発香がどんな香りかは分からない―――。ただ、以前に誘発香で誘われた愚かなβの黒守子に聞いた所によると――それは、とてつもなくαやβを不快にさせる香りらしい―――Ωを滅茶苦茶にしないと気が済まない、と思わせてしまうそうだ。 しかし、その時は―――とある人に救われて難をしのいだ。 そして今から僕が向かうのは、その黒守子から襲われようとしていた時に救ってくれた人 の寝所なのだ。 「―――尹先生、夜分遅くに失礼します。魄です……いつものあれを頂きにきました!!」 「おやおや―――魄、あなたはいつも元気ですね……ですが、他人の寝所を赴いた時には、事前に扉を叩くくらいの事はしないといけませんよ?」 ―――予想通り、その人は普段のように穏やかな微笑を急に訪ねてきた僕へと向けながら、快く寝所へと入れてくれるのだった。

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