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エピローグ
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
最愛なる我が子――尹儒と手を繋ぎ、目を瞑り夢の世界へと誘われようとしたが瞼の裏に今朝の起きたとある光景がじわり、じわりと迫ってくる。
それは――私が長く長く続く廊下を尹儒の手を引きながら歩いている時の事だった。
『母様、母様――先程、中庭で桜の木を眺めていた時にとある男の方から此を頂きました――母様に見せておあげ、とその方が仰っていたので……ほら、此れです……』
『……尹儒、あなた……まさか、また誰かから食べ物でももらったのでは?いけません、お腹を壊したりでもしたら……どうするのです?』
と、尹儒の小さな手のひらに乗っかっている物を見て――私は驚きのあまり言葉を失ってしまった。
其処には――人差し指程の大きさの私に瓜二つな布製の人形と、その側に中指程の大きさで夫婦のように私に瓜二つな人形に寄り添うな何者かの布製の人形が乗っかっていた。
――私に瓜二つな布製の人形の隣に寄り添うような布製の人形は燗喩殿には似ておらず、それと同時に既視感を覚え――必死で頭の中にある記憶の糸を手繰り寄せる。
私に瓜二つな布製の人形の隣に寄り添う中指程の布製の人形は――祝寿殿にいた木偶の童子と呼ばれていた者と瓜二つだったのだ。
そういえば、今――尹儒が来ている着物は私が木偶の童子から、かつて渡された小指程の布製の人形と全く同じだ。
つつーっと首筋を冷や汗が流れ落ちる――。
『あっ……あの男の人だよ――母様!!』
と、尹儒が唐突に叫んで慌てて目線をやったが残念ながら後ろ姿しか確認出来ず――それが木偶の童子と呼ばれていた者かははっきりとは確認出来なかった。
だが、廊下中に漂う程の強烈な甘い花の香りに目眩を覚え――僕は何故だが、再び王宮内に波乱が起きるという不安な思いに心を支配されてしまうのだった。
そして、なんとなくとはいえ――その日は近いと思わざるを得ないのだった。
父が亡くなり、王を失ったこの国を――新たに王となった燗喩殿と共にお守りしなくては――。それが、王妃となった私の務め――それと同時に未来に王となる尹儒を守るのも私の務めなのだ――。
敵が誰であろうとも――燗喩殿や尹儒……そしてこの国に害なす者達を排除するしか道はない、と決意しながら――私の意識は夢の中へと誘われるのだった。
【魄編 完結 尹儒編へ続く 】
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