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第1話 シアワセ 1-1

 もしも、もしもの世界。  いまある現実とは違う道を歩いていたら、幸せだったかもしれないと思ったことはある?  深夜一時。突然嫌がらせかと思うほど、インターフォンのチャイムが何度も部屋に鳴り響いた。眉をひそめ、立ち上がるのを躊躇っていると、二度、三度ドアを叩かれたあとに玄関扉の向こうで鈍い音が聞こえた。  その音の原因に気づき、俺は大きなため息をついて渋々立ち上がった。そして鍵を外し扉を押すが、なにかがつかえて開かない。仕方なく力任せに扉を押してみるが、それにもたれる重量に十五センチほど隙間が開いただけだ。 「おい、こら三木。邪魔だ身体どけろ、扉が開かねぇ」  隙間から覗くと赤茶色い癖っ毛の頭が窺える。その頭に向かって声をかけるが全く反応がない。 「寝んな、玄関の前で寝んじゃねぇ。いま起きなかったら二度と家に入れねぇぞ、いいんだな」  扉を蹴飛ばしその向こう側にいる三木を揺り起こす。すると小さく身動ぎして三木は顔を上げた。  ぼんやりとした表情のままこちらを見上げる三木に俺は大きく息をついた。 「酔っ払いが、早く家に入れ」  のそのそと立ち上がった三木を、今度は俺が見上げる。普段から凡庸とした顔が、酔いでますます冴えない顔になっているが、まぁこれは愛嬌だろうとため息混じりに肩をすくめた。するとますます目の前の顔は情けないものに変わった。 「広海先輩、ただいま」 「おう」  そう短く答えてやると、三木は突然腕を伸ばし俺の首にしがみついてきた。 「おい、とりあえず家に入れ……どうした、誰かにいじめられたか」

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