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第5話 シアワセ 1-5

「俺はいまが一番幸せだからいいんです。でも、先輩がそうじゃなかったらって考えたら」  自分で言いながら、一気にテンションの下がり始めた三木に俺は苦笑いを浮かべる。 「世界中探してもそんな物好きはお前くらいだぞ」 「先輩のよさを知ってるのは俺だけでいいんです」 「だったらもうちょっと俺の気持ちも尊重しやがれ」  全く人の気持ちを無視した言い分だ。誰が興味のない奴に好き好んで抱かれてやるか。俺にだって選ぶ権利はある。 「先輩好きです」 「なにどさくさにまぎれて押し倒してんだ、こら」  抱きつかれたまま身体を倒されて、俺は仰向けに床に転がる。人の言葉を無視して首筋に顔を寄せる三木の肩を叩くがびくともしない。  そしていつの間にかシャツを捲り上げていた手が、その内側に入り込み、無遠慮に人の身体を弄り出す。 「三木、ちょっとこっち向け」 「……? って、痛っ!」  首を傾げ顔を上げた三木に、間髪入れずに頭突きをかませば、額を押さえて三木は床に転がった。そしてその隙を見て立ち上がると、俺は三木を跨ぎ越しキッチンの冷蔵庫を開く。 「先輩っ、愛がないです」 「馬鹿が、愛の鞭だ。さっさと風呂入って酔い醒まして来い」  冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターのボトルを投げ、俺はもの言いたげな三木に目を細めた。 「超特急で行ってきます」  ボトルを受け止め慌ただしく立ち上がると、三木は足をもつれさせあちこちにぶつかりながら風呂場へと消えた。 「手間がかかる奴。余計なことばっか考えてんじゃねぇよ」  もしも、もしもの世界。  いまと違う道を選んだとしても、自分はきっといまと同じ道にたどり着いている。  ――それがきっと一番の幸せ [シアワセ / end]

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