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第8話 ライフ 1-3

 よくよく考えなくとも二部屋しかないこの家で、隣のリビングにいなければあそこしかないのだが。 「どうしたの先輩……って、あ、そっか眠いのか。ごめん」  眉間にしわを寄せたまま押し黙った俺が、眠くて不機嫌になったのだろうと勘違いした三木は慌てて、俺から離れ立ち上がった。 「俺ね、今日は通しで帰り遅くなるんだけど。先輩はお昼から? おかずは冷蔵庫に入ってるから適当に食べてくれていいから、それと……」  頭上でぶつぶつとなにか呟いている三木の声が聞こえるが、やはり頭は睡眠を求めているのかあまりよく聞こえない。しかし、俺は徐に三木の腕を掴んで引き寄せた。 「危ないって、先輩」  いきなり腕を引いた所為か三木は慌てて体勢を立て直そうとする。けれどそれを無視して首へ腕を回すと、俺は何事かを呟いているその口を塞いだ。  そしてそんな俺の行動に一瞬目を見開くものの、三木は押し当てた俺の唇を軽く甘噛みし、次第にそれを割りゆるりと舌を差し入れてくる。角度を変えて何度も口づけてくる三木にしばらく応えていたが、俺はなんの前触れもなく目の前の顔を押しやった。 「眠い、もういい」 「ええっ、そんな」 「帰って寝てたら起こせ」  情けない声を上げる三木にそう言って、俺はそのまま布団を被って一分待たずに寝入った。

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