10 / 147

第10話 ライフ 2-2

「いや、なんで俺がそこまでしてやる必要があるんだよ」  そもそもあいつは、勝手に人の家に転がり込んできたのだ。俺の休みを見計い毎週やって来ては、勝手にそのまま泊まり。毎日飯を作りにくるようになった頃には毎晩、帰ると三木が家にいた。 「いつから住み着いたんだ」  最初の頃はまだ、終電や始発で帰っていた気がする。いつの間にか俺の部屋にあいつの服が増え、日用品が増え、当たり前のように生活していた。  事の発端が思い出せず頭を掻いていると、奥の部屋からメールの着信音が聞こえた。その音は聞き覚えがあるものだったが、立ち上がるのが面倒で俺はテーブルに置かれた新聞を手にする。  しかし背後からレンジの音に呼ばれ、渋々立ち上がりながら俺は軽く舌打ちをした。 「どうせ引っ越しするなら、事務所の近くにするか」  火に掛け忘れていた味噌汁をぐるりとかき回し、俺は新聞に挟まっていた折り込み広告を眺めていた。  タクシーで帰る事も多い。どうせなら楽が出来る方がいい――そう思ったが、ふと俺は目を細め考え直した。 「ああ、でも。さらに仕事増やされるな」  いま現在、勤めているデザイン事務所は、大きくはないが腕のいいデザイナーや営業が揃っているので、入社以来一度も暇を感じた事がない。しかも上司は人遣いが荒い。  煮立ちそうになった鍋を見下ろし火を止めれば、先ほどとは違う着信音が聞こえてきた。噂をすればなんとやらで、鳴っているのはプライベートではなく会社の方だ。  仕方なしに部屋へ戻り、充電器に収まっていたそれを取り上げた。 「なんだ、生きてたか。広海、今日はサボリか」 「……有給取る。仕事、今日は十分しただろ」  言葉を発する前に聞こえてきたその声に、ため息が漏れる。

ともだちにシェアしよう!