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第17話 スペア 1-2

「……ああ、いまも嫌いだけど」 「そこがまずわかんねぇわ。ワン公はモロそういうタイプだろうが」 「さぁ、なんだっていいだろ」  顔を歪めあからさまに理解不能な表情を浮かべる奴に、肩をすくめて俺は財布から抜き取った万札をカウンターに放った。 「帰る、お前もさっさと帰れ。寝過ぎだ阿呆が」 「え? 帰んの? もうちょっとしたらほかの奴らも来るけど」 「あいつらのもうちょっとは二時間はあとだろ。付き合えるか」  店内の隅に掛けられた時計は既に二十四時を回っている。この男がほかの奴らに連絡したのは寝入る前の話だ。いまだ来る気配がないということは終電か、それを逃してタクシーで駆け込んでくるのだろう。いくら明日が休みでも、うわばみに付き合う気にはならない。 「んじゃ、近況変わったら教えろよ。男は無理だけど女は紹介してやるぜ」 「余計なお世話だ」  さも可笑しそうに笑う顔に目を細め、俺は早々に店をあとにした。駅に向かう途中で見慣れた顔に引き戻されそうになるが、それもぞんざいに払い終電に駆け込んだ。 「しまった。……携帯と鍵、事務所に忘れた」  ふと自分が手ぶらなことに気が付く。一旦事務所に戻るつもりで出たのがまずかった。鞄の中にプライベート用の携帯電話と家の鍵を入れっぱなしだ。財布と仕事用の携帯電話は常に懐に入れているので気づくのが遅れた。 「余計な時間食ったな」  一時間程度で帰ると踏んでいたのに、とんだ誤算だ。マンションから事務所まで然して離れていないが、これから戻るのは正直面倒くさい。携帯も鍵も、なくともそれほど困ることはない。――が、あいつには仕事用の携帯電話を教えていなかった気がする。

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