35 / 147

第35話 パフューム 2-4

 飲みに行くと言っていたので居酒屋も考えたけれど、味で選ぶならこっちだ。とりあえずビールは頼んだが、お酒はまた場所を変えてゆっくり飲めばいい。  夜遅くまでやっているこの店は、いつも仕事帰りのサラリーマンで溢れ返っている。そんな中で鯖の味噌煮定食を頬張る広海先輩は、見た目のよさで少々浮いてはいるけれど、幸せそうに食べてる姿を見られて俺は満足だ。 「ヒレカツも美味しいよ」  俺の手元にある、サクサクの衣をまとったミックスフライ定食の中から、肉厚のヒレカツを選んで広海先輩の皿の隅に乗せてあげると、ちらりとこちらに視線を向けてから広海先輩はそれをぱくりと口に運んだ。瞬間、微かに見えた舌先がちょっとエロいなぁと、思ったけれど、それはなんとか心の中に押しとどめた。  でもゆっくりと咀嚼して飲み込む喉元を見ながら、そういえば最近ご無沙汰だなと、やはりそちらの方から頭が離れなかった。 「お前、もの欲しそうな顔してこっち見んな」 「あ、ごめんなさい」  やましい気持ちはやはりすぐに気取られてしまうようで、眉をひそめてこちらを睨まれてしまった。ため息混じりに食事を続ける広海先輩に申しわけないと思いつつも、つい唇や指先、喉元を視線で追ってしまう。  明日が休みなら今夜したいなぁ――と、ぼんやり考えていたら、テーブルの下でつま先を蹴り飛ばされた。慌てて前を見れば「顔に締まりがない」と舌打ちされてしまった。でもいいのだ。

ともだちにシェアしよう!