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第37話 パフューム 2-6

 にこにこと笑みを浮かべている小宮さんの横で、驚きをあらわにしている城戸さんは、こちらをじっと見つめ、口を開かない。  視線を向けると、気まずい空気が俺と彼女の間に広がる。それもそのはず、そこにいるのは城戸詩織、小一時間前に俺が振ったばかりの子だ。なんというタイミングの悪さだろうか。しかも俺の名前を呼んで笑っているのは――。 「あんたの声、聞き覚えがある」 「え?」  以前、俺と広海先輩が喧嘩した元凶の女の子だ。酔っ払った小宮さんを送った際に服に匂いが移ってしまったことがある。鼻の利く広海先輩は雑多な匂いが嫌いだ。ヤキモチも含まれていたんだろうけど、それが原因でかなりガチギレられた上に、泣かせてしまった経緯があり、彼女のことは正直避けて通りたいところだった。  そういえば広海先輩が小宮さんに言った電話口での「瑛治は俺のもの」宣言、あれからに彼女に対して肯定も否定もせず、そのままだったことを今頃になって思い出した。 「……誰?」  突然、広海先輩に声をかけられ、首を傾げる小宮さん――覚えていないのは仕方ないことかもしれない。酔っ払ってかけた電話に出た、見ず知らずの男の声などそうそう覚えていないだろう。 「都合の悪いことは全部忘れんの?」  でもすぐ気づいてしまう広海先輩には変な冷や汗が出た。別になにもやましいことはないし、二人とも俺からしてみればただの同僚なのだが、先ほどより明らかな不機嫌なオーラを感じて慌てふためきそうになる。 「あなた、もしかしてこの間の電話の男?」

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