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第38話 パフューム 2-7
しばらく考える素振りをしていた小宮さんがはっと思い出したように顔を上げ、広海先輩を指さした。そしてまじまじと食い入るように、彼の顔を見つめる。
「瑛治さんの、友達?」
一瞬ひるんだ表情を見せてから、少し虚勢を張るように肩をすくめると、彼女は俺にそう問いかける。どうやらなにか現実逃避を試みたようだ。まあ、広海先輩は普通の女の子ならつい見惚れてしまうような男前だし、電話の内容が内容だけに混乱しているのだろう。
「ふぅん、顔は想像通り中の下、だな。人のもんに手つけんなよ、ハイエナ女」
「ちょ、ちょっと、広海先輩それは言い過ぎ」
ふっと目を細めた彼の口から出た言葉に思わず飛び上がってしまった。いくらなんでもそれは初対面の女の子に対して言い過ぎだ。というより、なぜこんなにも珍しく好戦的な態度なんだろうか。普段はそんなに固執するタイプではないのに、いつもと違ってひどく焦る。でもかなり広海先輩が不機嫌になっているのはわかるので、それ以上は強く言えなくて、眉間にしわを寄せた彼の顔を見つめるしか出来なかった。
ハイエナ女呼ばわりされた小宮さんは「冗談じゃないの?」と呟きながら、呆然と立ち尽くしてしまっている。
「ひ、ひろみ先輩って……瑛治くん、ほんとにその人と付き合ってるの?」
「えっと、うん、まあ」
今まで口を閉ざしていた城戸さんが震えた声で呟き、こちらを見上げた。その視線に、俺は苦笑いを浮かべ肯定をするしかなかった。広海先輩の名前はすでに職場ではかなり知られているようだし、彼女にもそう伝えたばかりなので誤魔化しようがない。
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