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第39話 パフューム 2-8
響きが女性的な名前だったので、職場の人間は広海先輩を歳上の彼女なんだと疑っていなかったが、実物を目の前にして驚くのは当然だろう。彼はどう見たって男性だ。
「男の人が好きなの?」
「いや、違うから、あとにも先にも広海先輩だけだし」
と言うか、彼以外は絶対に無理だ。
「……信じらんない、気持ち悪い」
俺の必死の訂正は彼女に届いていないようで、思いきり後ろへ引かれてしまった。しかし城戸さんが後ろへ下がった分だけ、広海先輩が俺の前へ足を踏み出した。
「気持ち悪いとかってそう簡単に思うんなら、あんた大して瑛治のこと好きじゃなかったんだろ」
「え?」
「あんたらはちょっと人が好くて優しくて、なんでもにこにこ笑って話を聞いてくれる、そんな都合のいい彼氏が欲しかっただけだ」
広海先輩の明け透けな言葉に、二人は一瞬うろたえたように顔を見合わせる。
「そ、れは」
「……」
口ごもりながら声を詰まらせる彼女たちの姿に、俺は少なからずショックに似た感情を覚えた。気持ちが悪いとか、同性愛者なのかと批判され言われるのは、それなりに覚悟が出来てるのでまだいい。でもどんな理由であれ都合のいい人間だと思われるのは、やはり寂しいものがある。
「あんたらには一生、瑛治のよさなんてわかんねぇよ」
皆一様に俯いていると、力強く腕を掴まれた。その手を見下ろして、その手の持ち主を見つめれば、無言のまま腕を引かれた。そしてそれに従いついて行けば、後ろから微かな声で「ごめんなさい」と聞こえた。
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