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第40話 パフューム 3-1
少し先を足早に歩く広海先輩はなにも喋らずに前を向いている。掴まれていた腕はいつの間にか離れて、俺は彼の後ろを黙ってついて歩いた。
人の喧騒も減り、しんと静かになった空間――どのくらい歩いたのか、どこまで来たのかわからなくなったその時、ふいに広海先輩の足が止まった。そしてしばらくその場に佇み動かなかったが、ふっと吐き出されたため息と共に、同じく立ち止まっていた俺を彼はゆっくりと振り返る。
「広海先輩?」
「お前さ、ちょっとは怒れよ」
「え?」
急に投げかけられた言葉に、なにに対して? という疑問が浮かんでしまった。そしてその俺の考えにすぐに気づいたのか、広海先輩は呆れたように深いため息をついた。
「寄ってきた女には都合のいい男とか思われて、俺には職場の人間に野郎と付き合ってんのバラされて、普通ちょっとは怒るだろそこは」
「……あ、でも」
あの子たちのことは怒るというよりも悲しかったのであって、責めるのもなんだか違う気がした。それに広海先輩のことは、怒りようがない。ヤキモチ妬かれて嬉しかったし、あんな風に庇ってくれて感激したし、もうバレても構わないと正直思ってしまった。周りに非難されたり蔑まれたりするかもしれないけど、この人のことを隠さなきゃいけない、そんな生活は嫌だなと改めて感じた。
「お前、俺についてきていいのか」
「え? それは、どういう意味?」
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