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第4話
結論から言うと、お腹に赤ちゃんまだいません。もうっ!紛らわしい事しないで欲しい。
僕の元いた世界ではΩの発情期は三ヶ月に一回位だった。αの人はΩの発情の匂いに影響されてつられて発情していた。でもこの世界は空に浮かぶ月に左右されるらしい。
二つの月が重なる五日間。
そのあいだがこっちの世界の発情期なんだって。
「でも種族が違うから僕達エッチ出来ないよ?」
「そっか、トモくんの世界は人間だけだから異種間での婚姻 はなかったんだね。コッチはたくさんの種族があって違う種族とも結婚するでしょ。子供はね、神様がどっちの種族にするか決めて与えてくださるんだ」
はい?
不思議がる僕にアレクさんは詳しく教えてくれた。
この世界にはそれぞれの種族にそれぞれの聖なる場所があるらしい。そこは種族の発祥の地で、子供がお腹に宿る場所。
ケンタウロスの場所は彼らの住処のずっと奥の森だった。
違う種族と番 になった夫婦は、子供が生まれる時が来ると体の造りがどちらかの種族に近づいてゆく。そうしたらその種族の聖なる場所に行き、そこで発情期を過ごすのだ。
どちらの体になるかは神様が決める。夫婦のどちらにも変化がなければその時の発情期では子供は生まれない。何故なら違う種族では聖なる場所が違うからだ。それぞれの場所はそれぞれの種族しか入れない。
だから体に変化のなかったアレクさんは、僕の体に変化の兆しがないかドキドキしながら見守っていたのだ。
「藁 が床に散らばっていたのは、多分キミだよトモくん」
「へっ」
「夜中にトイレに行った際に寝ぼけて巣作りしちゃったんだよ」
「えええ!」
巣作りは向こうの世界にもあった。主にΩが妊娠してたりショックがあったりして精神的に不安定な時に、無意識に巣を作っちゃうって。
それを僕がやっちゃったの?それもケンタウロスの巣を作ろうと?
「今回、君はまだ小さいから発情 自体がないのかと思ってたんだ。でも巣作りをしてくれたみたいだからもしかして体に変化がくるのかなって」
それでいつも傍にいたんだ。やっと今までのアレクさんの不思議な行動が納得できた。
「それに盛 ってきてる。発情期 に入りそうだね。早く言ってよ、心配しちゃったじゃないか」
「言えないよ……」
悶々 としてます、なんて言えるわけがない。僕は赤い顔を隠して下を向いた。
その僕を、アレクさんはさっきと違って今度は壊れ物のように抱きしめた。
「嬉しい。一緒に森へ入れる。僕らの赤ちゃんはケンタウロスだよ……」
そうなんだ……
不思議な気分でしばらくそのまま抱き合っていた。
あ。
アレクさんが震えている……
あのアレクさんが……
「……っ!」
急におへその辺りからぐわっと熱い塊がこみ上げてきて、思わずアレクさんの首に抱きついた。
いろんなことにビックリして他人事みたいだった感覚に、いきなり現実感が湧いたんだ。
アレクさんもきつく抱きしめ返してくれた。
(嬉しい……)
僕も今頃になって震えてきた。
そうだ、僕は嬉しいんだ。
最後まで出来ないから子供は無理かもって思い始めていた。
だから僕なんかが番 になってしまってごめんなさいって思ってた。僕が異世界なんかに来ちゃったせいで大好きなアレクさんに子供ができないなら、僕はアレクさんを苦しめるために来たんじゃないかって怖くなった。
きっと巣作りしちゃったのは不安だったんだ。
僕はアレクさんを幸せに出来るかなって心配になったんだ。
「ひ、ひくっ。う、わーん。うわーん。あーん。うわーん」
いきなり大声で泣きしだした僕を、アレクさんの腕はますます強く抱きしめてくれる。
きっとアレクさんも不安だったんだ。
僕が異世界人だから。体がどちらかに揃わなきゃ子供は出来ない。異世界人の僕と揃うことが出来るのか。そして僕がこっちの月で発情することが出来るのか。
不安でいつも僕の様子を窺っていた。
「神よ、感謝します……」
アレクさんは静かに感謝の祈りを捧げた。
天空の二つの月は神の化身で番 なのだそうだ。
αの神とΩの神。そしてこの地上はβの大地。
二つの神が重なる時、神々の祝福はこの地上にも降り注がれる。
(行こう。僕らの子供を迎えに、森へ──)
数日後──
皆既月食で聖なる森が幻想的な光に包まれている中、寄り添う二匹の獣が天空の神々を見上げていた。
〈了〉
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