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第62話

それだけのモノを与えたクロは、どこにも見当たらなくて、急に切なさが胸を荒らす。 「おい、クロっ!」 呼んでも、シーンとした部屋。 トイレも電気は消えてるようだし、この家にいないのか... そう思うと急に怖くなった。 佐久間と別れた時も...こうやって一人で居たなと思い出したら、なんか泣きたくなった。 と、カチャとドアが開いて、慌てて見たら... クロ。 思わず、枕ぶん投げた! 「りお?」 避けもしないで片手でキャッチかよ。 クソっ、身体能力高いヤツはムカつく。 「どこ行ってたんだよ」 「アイス買ってきた」 は!?なんでアイス? と、アホヅラしてたらクロが横に座って、カップアイスを開けた。 「バニラ食える?」 「オレ?食えるよ...なんで?」 そう言ったら、スプンで掬って口に入れられた。 甘くて、ひんやりと口の中にとろけたアイスが広がった。 散々啼いた喉に、その甘みがとても心地良かった。 「出るなら一声掛けろよ」 置いてかれそうで寂しかったなんて言わねぇけど! 「あんあんしたあと気を失ったのに、起こせないだろ...」 「...あんあんって、なんかクロの口から出るとヘン」 「...そうか」 そう言ってクロもアイスを口に入れた。 飲み込む時の喉仏とか、首から鎖骨にかけての線とかを見てたらいつの間にか見蕩れてた。 「黙ってて悪かった...」 そう言って、食いかけのアイス渡されたから、オレはそれを掬って口へと運んだ。 「てか、プロかよ」 「ん、2軍だから、まだ遠征とかはそんなに無いけど、置いて行かれたらりお寂しいよな?」 「は?全く寂しくねぇし...」 そう言ってアイスを食った。ホント、天邪鬼だよなと自分でも思うわ。 「俺は寂しいけどな、そうか...寂しくないのか」 クソっ思いの外クロの愚直さが眩しい。 さっき少しいなかっただけで、寂しさにクロを探したと言うのに。 「りお、そうだ...HIVだが...キスでは感染しないんだって聞いた。 空気に弱いから、感染するのは性交の時にゴム着けてないとか、そう言うのだから、多分りおは大丈夫だと思う」 オレネットで調べたのに...先入観でかな? キスもダメって思ってた。 「は?キス感染ないんだ?...知らなかった」 そう、答えながら自分の唇を撫でてみる。 そしたらその手をクロが取って、手の甲に一つキスを落とした。 「だから、俺はりおとたくさんキスしたい」

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