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第2話
約束の時間は14時半。
軽く昼飯を食べて、そのままコーヒーでも飲んで待っていようと思っていた。初めて来た店だったけど、濃くて美味しいアイスコーヒーだった。
昼間はあまり外に出ない。夜行性の生活スタイルには、真昼間の陽射しは強すぎる。本当に、雪だるまのように溶けそうだった。
(奥に移動しよう)
主婦だか学生だかわからないけど、女子も増えてきたし、眺めのいいこの席に座りたいだろう。俺みたいなのがいるのは場違いだ。
立ち上がってコーヒーのグラスを持った瞬間、男の声に引き止められた。
「すみません、お待たせしました!」
振り返ると、スーツを着たスラっとした男が、俺にペコペコ頭を下げている。いかにも営業のサラリーマンという風体だった。
左手薬指に指輪をはめている。しまいに涼しげに整った笑顔が、見ただけで幸せな生活感を醸し出していたが。
(あれ)
この人、何だか見たことがあるような。
違和感はあるけど何だろう。
彼に対して思い出せないレベルの引っ掛かりを覚えた。
「あ、いえ、どうも」
まぁいい。思い出せないくらいだから大したことじゃない。とは思ってやり過ごそうとする。
しかし、どうやら引っかかっていたのは、俺だけではなかったらしい。
俺の顔をしっかりと見るなり、彼はあっと声をあげた。
「あれ…? もしかして…」
恐る恐るだったが、久しぶりに名前を呼ばれた。
やっぱり、違和感は嘘じゃなかった。
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