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第1話

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 【side???】 「あっ、あンッ」 わざとらしい喘ぎをあげる自分の下の女に嫌気が差す。 なんでこんなにも醜く汚く泣くんだろう。気持ちよくもない。 ただ鬱陶しいから1回抱いて黙らせるためにホテルに連れ込んだだけでもう気持ちが冷めていくのを感じた。 「朝川さまぁ♡」 チッと盛大に舌打ちが溢れるがそんなことはお構いなしに下の女はくねくねと動く。 気持ちよくないしイけなさそうなので適当に動いて奥を抉ってやり女をイかせた。 演技ですら喘ぎが汚いってどういうことなんだよ…おざなりにセックスを終えた金髪のイケメンはため息をついた。 【side雪也】 雨が降っている。男の気持ちを反映したかのような雨空に思わずため息がこぼれる。 男の名前は美里雪也。警察官として少年捜査課に勤めて3年目、まさか1番やりたくない仕事に当たるとは…ツイていない。 本日の雪也のしごとは地元、いや全国でもかなり有名な不良校「天桜高校」でSNS系のモラルや交通安全に関わるルールなどを1日かけて講習するという少年捜査課では最も恐れられている仕事だった。 この仕事は少年捜査課に勤めている歴の短い15名から1名がくじ引きで選出され恐る恐る、渋々やる少年捜査課唯一の恐ろしい仕事なのだ。 少年捜査課は普段パトロールなどをしていてよっぽどのことがなければ銃を抜くことなどない。 だがこの仕事だけは最悪銃での威嚇射撃があるとまで言われているのだ、どれほど恐ろしい仕事がご理解いただけただろう。 さて、現役警察官たちをここまで震え上がらせる札付きのワルが集まる天桜高校について触れておこう。 まず全生徒数は349名。1学年2~3クラスしかない。 全員が受験をくぐり抜けてきた「ちょっと頭が回る不良」なので先生では生徒たちを抑制することができない。 そのため授業はあってないようなものであり廊下ではバイクが唸りをあげる。 また、生徒たちの安全のためにガラスがない。 どういうことかというと、ガラスがあると生徒たちが割ってしまい外部にも内部にも大変危険なのだ。 飲酒や喫煙をしている生徒もいて警察や教師の注意を一向に聞く気はないようだ。 さらに夜時間の生徒の補導率が高い高校としても有名でここまで書き連ねただけで伝説ができる程度には不良校なのだ。 そんな天桜高校はある種1つのチームみたいなものなのだそう。 年度がわりに合わせてトップの選定戦があり勝者がリーダーとなりその1年チームを、学校を率いていくそう。 どうやらそのリーダーに年齢は関係なく力が全てなようだ。 つまり、そのリーダーをなんとかできれば他の生徒はリーダーの犬なのでこの仕事は成功できる、ということだった。 尚、この仕事をしてきた歴代の先輩たちは全員がこの仕事で負傷しており2人に1人が銃を抜いた経験があるそうだ。 統計的に見ても成功確率が低い(というよりほぼない)こんな仕事に雪也が選ばれたのかというと3日前のくじ引きで青い塗料の付いた割り箸、すなわちハズレを引いてしまったからだ。 雪也は歴が短い15名には含まれていなかったが1回やった人は免除なため繰り下げで入れられてしまったのだ。ツイていないにも程がある。 つい3日前のことを思い出してパトカーの助手席で雪也は頭を抱えた。 運転している後輩のこちらを見る視線と言ったらもう…憐れみしかこもっていない。 今にも「大変ですね」と言われかねない。 しかし、雪也の仕事の姿勢として「手を抜かない」と決めている。 今「大変ですね」なんて言われてしまうとその姿勢を崩してしまいそうなため後輩を視線で牽制した。 頭の中は依然ぐるぐるとして緊張で胃液がせり上がってきそうになるのを必死で抑えた。 【side奏音】 ダリィ…相変わらず教室はバカどもがうるさいしどこにいても取り巻きが媚を売ってくる。 良い逃げ場はないのかと探し回り鍵のかかった屋上を見つけたのはもう2年も前のことだ。 朝川奏音は頭もルックスもよく、その上喧嘩も強かった。 高1の段階でその時トップだった高3をボコボコにして以降ずっとトップで居続けてきた。 今年度のチャレンジャーを全員ボコボコにして疲れているというのに毎年恒例のくそほど下らない講習があると学校に呼び出された。 奏音がトップにいるうちは何をしてもいいからとにかく学校に来ることになっている日は登校しろと全員に言っているのだから言っている本人が来ない訳にもいかずこうしてひとりっきり屋上でスマホを眺めているのであった。 律儀にも奏音は毎年くだらない講習に出席していた。 どうせ警察官の間でも嫌厭されたらい回しにされたであろうこの仕事を嫌々やっている警察官を見ると虫酸が走った。 どいつもこいつも生徒に怯えてばかりでどもりながら適当に話してそそくさと逃げるように学校から去っていく。 奏音はそんな警察官が大嫌いだった。 偉そうに補導や注意をする癖にいざこの学校に来ると怯えているその日和見な姿勢は奏音の仁義に反するものだった。 耳障りになる予鈴に奏音は気怠げに身を起こした。 どうせ今日来る警察官だってオドオドしてすぐにいなくなるんだろうな…あからさまなため息をつきながら奏音は講習が行われるという教室に向かった。 ドアを無造作に開くと中にはもうほとんどの生徒がいてガヤガヤとしていた。 しかし奏音がドアを開けた2秒後にはシーンとして場が張りつめた。 奏音はガリガリと頭をかいて心底面倒くさそうに1つ舌打ちすると「おはよう」と言った。 すると誰1人ずれることなく生徒たちが「おはようございます!!」と大声で挨拶し、ぐわぁんと教室がなった。 なんてことはない、これがトップとそれ以外の決められた挨拶の方法なのだ。 ズカズカと真ん中の通路を歩き最前列の真ん中に陣取った。 それを合図にまた生徒たちがガヤガヤとしだした。 煙草を吸ってる奴もチューハイを飲んでいる奴もタトゥーをしている奴もいてここが高校だと言っても普通なら信じられないだろう。 心の中で苦笑して奏音は一言も喋ることなく警察官の入室を待った。 【side雪也】 ドアの前に立って雪也は2つ大きく深呼吸をした。 中には想像と違いたくさんの生徒がいるようでガヤガヤとした声が教室の外にまで響いている。 ん?と不意に雪也は首をひねった。 一瞬よく知る匂いがしたような気がしたのだ。 数秒でそれがタバコの匂いであることを察した雪也はここから言わなければ良いのか…とため息をいくつもこぼした。 しかし、このままドアの前で躊躇っていても何も始まらないし終わらない。 しかも雪也は仕事をしっかりやろうと思っている。 たとえ、どんなに怖くともきっちりやろうと心構えはしてきた。 もう1つ大きな深呼吸をした雪也はドアにその手をかけ、ゆっくりと横にスライドした。 【side奏音】 目をつぶっていた奏音はうるさい生徒たちの声の中に微かにドアの開く音を聞き取り目を開けた。案の定ドアが開かれてそこにはしっかりと筋肉のついたイケメンの警察官がいた。 男の奏音から見ても分かるその顔立ちの綺麗さ、服越しにも分かる腹筋。 その男はつかつかと教卓に近づきPCを置いた。 どうやらそのPCがカンペの役割を果たすらしい。 例年警察官も緊張して忘れてしまうのを恐れてカンペを用意していた。 しかしこの男にはそこまで怯えといった感情はないように見える。 一瞬あった目はすぐにそらされて男は突然手を叩いた。 軽く何気ない1発だったのに全員の鼓膜を揺らす程大きな音が出た。 奏音といえばその迫力にただただ圧倒されていた。 「天桜高校の皆さん、今日は講習に集まってくれてありがとうございます。少年捜査課の美里雪也といいます」 例年の警察官が棒読みもしくは震え声で言っていたセリフを堂々と言い、男は自己紹介した。美里雪也…奏音は頭の中で反復してみる。綺麗な名前だ。 訳もなくこの講習をしっかり受けてみようという気持ちになり自分の気持ちに戸惑いながらノートを開いた。

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