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第4話
【雪也side】
リーダーの態度で察してはいたが講演は大失敗していた。
黒澤の話はことごとく無視され常にざわめきに満ちていた。
割りとキレ性な黒澤がキレずに根気よくやってきたのはかなり驚いた。
しかし壇上の黒澤の顔は怒りで歪み耳まで真っ赤になっている。
ここで癇癪を起こされると困るので雪也も壇上に上がった。
するとリーダーが唐突に手をあげてそれに合わせて全員の話し声がぴたりと止んだ。
何か質問があるのかと声をかけようとしたがリーダーは手をおろしてしまった。
要するに雪也に注目を集め話を聞かせるためだけにリーダーは手をあげてくれたのだった。
驚きながらも感謝の意を込めてリーダーと目を合わせほぼ気付かれないレベルで会釈をした。
リーダーはその僅かな動きを読めたらしく少し頷くと視線を外してしまった。
「これから個人面談を始めたいと思います(これで生徒たちの顔が嫌そうに歪んだ)。
1人10分程でやるのでどうぞ」
来てくれるか不安に思いながらも口を閉じるとリーダーが立ち上がり生徒たちに指示を出した。
「俺は最後に行く。どっちでもいいからさっさとやれ」
リーダーには逆らえない生徒たちは「ハイ!!」と大声で返事をしてこちらに向かってきた。
ここでやるわけにはいかないのでまだワナワナしている黒澤の肩を叩き「行くぞ」と耳元で囁いた。
ピクリと反応した黒澤は渋々隣の教室へと向かった。
雪也自身も隣の隣の教室へ向かった。
12人面談をしたところで生徒が来なくなったので一応確認のために講演を行った多目的室へと向かった。
途中黒澤が面談を行っていた教室を確認したが電気が消えていたので終わったのだろうと安堵しながら多目的室のドアを開けた。
すると雪也の目に信じられない光景が飛び込んできた。
黒澤がリーダーに殴りかかっていた。
しかもリーダーはされるがままに脱力して殴られていた。
「何してるんだ!!」
我を忘れて大声で叫び黒澤を引き剥がし全力で殴りつけた。
ハッとしたようにこっちを見てくる黒澤に憎悪のようなどす黒い感情が湧き上がりどうにもできず、押さえ込むようにつばを飲み込んで「黒沢、先に署に戻って。リ…彼の面談を終わらせたら僕も戻るから」と言う。
叱られた子供のようだった黒澤は素直に署に先に戻っていった。
もう2時間以上面談をしていたので外は若干暗い。
とりあえず傷の手当ても兼ねて保健室へ連れて行くことにした。
廊下を歩いていても学校に人気がないことから先生や生徒が既に帰っていることを察した。
リーダーも早く帰さなければと少し急ぎ足になりつつ保健室へ向かう。
リーダーは何も言わずについてきている。
呼吸が少し短いのが気になったが保健室で手当てをする時に大丈夫か確認すればいいだろう。
さあ、今日一番の仕事だ。
彼にはどうにかして普通の世界に戻ってもらわねばならない。
【奏音side】
奏音は一人、また一人と個人面談へといなくなっていくのをヘッドフォンを装着しながら自分の番を待っていた。
ついに自分1人しか多目的室にいなくなった時ドアが開いてあのチャラ男風が入ってきた。
俺の姿を認めるなり何故かその顔に憎しみに似た表情を浮かべ唐突に殴りかかってきた。
勿論経験上殴り返して組み伏せるのは難しいことではなかったがわざわざ面倒事を起こすのもダルいので好きにさせておいた。
自分より弱いとは言え流石現役警察官、急所を狙って重い拳が入ってくる。
唇と額が切れて血が流れた。
鳩尾にのめり込んだキツイ一撃に身体を折り顔を歪めて喘いでいる一番情けないタイミングで美里さんが入ってきた。
入ってくるなり美里さんは何してるんだ、と叫び俺からチャラ男風を引き剥がして殴った。
それを見て一瞬だが身体の痛みを忘れてニヤリとした。
チャラ男風を帰らせた美里さんに連れられ保健室に向かう。
どうやら手当てをしてくれるらしい。
多分そこで個人面談も行われるのだろう。
学校には既に誰も居ないようで空は暗くなっている。
保健室に入ると美里さんはベッドに座るように、と奏音を促し、手当てに必要な道具を勝手に保健室を漁って出してきた。
それなら言葉に甘えておこうとベッドに腰掛けると美里さんはピンセットで綿をつまみ止血を始めた。
額の傷は派手に血が出てはいるがそこまで深くはなさそうだ。
「ごめん」
呟くように吐き出されたその言葉を奏音の耳は捉えた。
「どうして美里さんが謝るんですか」
少しぶっきらぼうになってしまいながらも言外に貴方は悪くないと伝える。
美里さんの少し驚いたような顔は多分名前を覚えられていたことに対する驚きだろう。
少し面白くなって「名前、前の講習で聞きましたから」と続ける。
美里さんは更に目を見開いたが納得したらしい。
「身内が迷惑をかけた」と言いながらしっかり手当てを続ける美里さんに心がほっこりする。
「終わった…じゃあ個人面談に入ってもいいかな」遠慮がちに告げられたその台詞で本題を思い出す。
何かを言おうとして開きかけた美里さんの口に人差し指をあてる。
少し大袈裟なくらい肩を跳ねさせた美里さんを見ながら奏音はクスリと笑った。
「俺、組に入る気ないですよ。めちゃくちゃ誘われてますけど。だから大丈夫です」
その言葉に心底嬉しそうにふにゃりと笑った美里さんに少しドキッとする。
手当てに使った道具を元あった位置に戻す美里さんの背中をぼーっと眺めているといきなりどアップで整った顔が写り込んできた。
驚いて座ったまま少し後ずさると美里さんが「大丈夫?まだどこか痛むのか?」と聞いてくるので何もないと首をふる。
それを見てまた安心したように笑ったその顔に何故か耐えられなくなりすっと立ち上がってキスをした。
驚きで固まった美里さんの口内に無理やり侵入する。
やっと少し動けるようになった美里さんの手が肩を押してきたので一旦離れる。
美里さんは顔も耳も真っ赤だ。
その姿に奏音にしては珍しくふわりと微笑んだ。
【雪也side】
突然のキスで思考が停止し身体が硬直している。
名前すら知らないリーダーとキス。
ふわりと笑ったリーダーはその後困ったように眉を下げて「嫌でした?」と首を傾げた。
嫌ではなかったように思う。
もつれそうになる舌を何とか動かし「君の名前が知りたい」と言う。
意表を突かれたのか少しわざとらしさを演出していた下がった眉が元に戻っている。
「朝川奏音」
余りにも簡潔に名前だけを告げてくるリーダーに笑いが漏れる。
一応自分も返したほうが良いと思い「僕は」と言ったところで明瞭な声に遮られる。
「美里雪也さん、でしょう?」
そういえばさっきも彼は講習で聞いたと言っていた。頷くとリーダー…朝川くんはまた笑いもう一度耳元に顔を寄せてきた。
耳に少し届く吐息にびくりとするとそのまま耳元で微かにくすくすという笑い声が聞こえて少しムッとする。
「嫌でした?」
先程と同じことを聞かれ今度は雪也も「いいや」と答える。
それは良かった、と言った朝川くんは素早い身のこなしであっという間に体重をかけながら僕をベッドに押し倒してきた。
さっきまで朝川くんが座っていたベッドに押し付けられ流石に慌ててもがくと更に力を込めて押し付けられ仕方なく彼を見上げ視線を合わせる。
ゾクッ
その目に欲情を感じ取り身体を震わせる。
「ヤりましょう」なんて声までもが情欲に濡れて普段の気怠い感じと比べてエロい。
状況から見ても抱かれる側は自分だろうし男とヤッたことなんて勿論なかったけどそんなことどうでも良くなって雪也は促されるままに頷いた。
噛み付くようなキスも耳を犯すように舐める舌も神経が集中していて感じやすいことを知っているであろう乳首を弄る指も全てが雪也を煽り、雪也は彼を受け入れた。
エクスタシーの極みで彼に言われて彼を奏音、と呼んだ。
彼も雪也を雪也さん、と欲に塗れた声で呼んだ。
行為後の倦怠感と腰の痛みでぐったりとしている雪也の前で朝川くんは後片付けをした。
そして保健室のメモ用紙を千切って何かをさらさらと書いた。
「どうぞ」差し出されたメモを見ると恐らく彼のものであろう(というよりそれでない訳がない)番号とアドレスが書かれていた。
受け取ると満足げににやりと笑い「またヤりましょう」といい保健室を出ていった。
振り返りざまに「俺、女とヤッても全然気持ちよくなかったけど美里さんとのセックスは正直興奮した」なんて言葉を残して。
またも熱くなる顔と重い身体でベッドから出て「今日は直帰します」と無料アプリのFINEで黒澤に伝え、既読がついたのを確認しスマホを制服に放り込み家に帰った。
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