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第12話
「ここはある国の首相の別荘、向こうは航空会社の社長の別荘、その奥が大物女優一家の別荘」
彼の上げていく名前はVIPのものばかりだった。
裏路地のしょっぱいバーで飲むのだけが楽しみの俺がいるのは、完全に場違いだ。
思えば適当にあしらっちゃってるけど、こいつだってその別荘群に名前をつらねる大物なわけで。
ノリでここまで来ちゃったけど、さすがに変な汗をかく。
ちょっと緊張していると、急に横で笑われた。
「ハッハッ! リゾート地でなんて顔してるんだよハニー、リラックスしてくれよ!」
「リラックスったって……」
海外の超VIPの集う島に来て緊張しない一般市民がどこの世界にいるだろう。
「これから向かうのは俺たちの愛の巣なんだぜ、もっとリラックスしろよ~」
しかし奴がこんなわけわかんねぇこと言い出したもんだから、思いっきり眉間に皺を寄せてしまった。
「はぁ~?」
睨みつけるみたいな顔をしてたけど、奴には全然響いてない。
「ピッカピカにしたんだぜ~、最高級のハウスキープ頼んでたっぷり一カ月清掃してもらったんだ! 会えなかった分をたっぷり語り合おうと思ってな!」
「それが何で愛の、巣…なんだよ…」
口に出すのも恥ずかしい。
「そりゃあ待ち焦がれた相手を迎え入れるんだから、愛の巣に決まってるじゃねぇか!だろ?」
「どんだけ前向きなんだよ」
理由はよくわからないけど、俺がこいつにかなり惚れられてるっていうのは、よくわかった。
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